キャリア教育の理論と実践2~明日からすぐに使えるキャリア教育~

 目次
1.生き方指導、人づくりのキャリア教育
 (1) 小学生へのプログラム
 (2) 中学生へのプログラム
 (3) 高校生へのプログラム
2.体験型のキャリア教育の必要性
 (1) モデリング教材の活用
 (2) サイコエジュケーション(心理教育)
 (3) 小中連携・異学年交流によるピア・サポート
 (4) インタビューを通したキャリア教育
 (5) ゲストティーチャー

1.生き方指導、人づくりのキャリア教育

 本章では、生徒指導を問題行動へ対応の狭義ではなく、SGE、ピア・サポートなどを活用した「生き方指導」「人づくり」の広義の対応で示している。
(1) 小学生へのプログラム
 小学校からのキャリア教育では、キャリア形成に必要な基礎力を身に着けることが肝要である。諸富(2007)は、小学校からのキャリア教育の必要性を述べ、具体的には職業生活を営んでいくために必要な「良好な人間関係つくる力」、「責任をもって係活動をやり遂げる力」、「一つのことに集中する力」などを育成することが望ましいという。これらの育成には、SGE、ピア・サポート、SELのなどのプログラムが有効である。
 例えば「良好な人間関係つくる力」の育成には、帰りの会の「ほめほめタイム」、「ありがとうタイム」など、お互いのよさを認め合うプログラムが効果的である。他にも、「友だちのよさ見つけカード」、「友達発見インタビュー」など、自分は友だちの良さをどのように見つけているのかを振り返るプログラムもある(諸富,2007)。これらのプログラム実施により、友だちとのふれあいを通し、自己肯定感を高めることができる。
 配慮事項として、特定の子どもばかりによい評価が集中し、逆にまったく評価してもらえない子どもがいる場合は、教師の十分な気配り必要となる。
(2) 中学生へのプログラム
 中学生に実施するキャリア教育は、<内省>と<活動>の両面が必要である。
 <内省>では、「自分はどんな仕事に就きたいのか」、「10年後、20年後はどんな自分になっていたいのか」自問自答する時間が必要である。総合的な学習の時間などを活用し、自分の興味のある職業を選択したり、自分の価値観を発見できるワークシートを使用するなどして、自分の将来像・未来像をイメージ化させる。これらの取り組みにより、自分のキャリアンカーが明確化され、自分のキャリアデザインが作られるのである。
 しかし、キャリアデザインには柔軟性が必要である。あまりにも先々の将来設計までがんじがらめにし過ぎると、一部の子どもは不安になる場合があるため、配慮が必要である。
 <活動>では、職業体験を中心としたキャリア体験・ゲストティーチャーなどにより、モデル像の提示し子供たちの夢に刺激を与える。中学生のキャリア教育では、進路選択と絡めて「将来、自分は何をしたいのか」、「なぜ働くのか」、「働くことで何を実現したいのか」、「社会の中でどんな価値を実現したいのか」などのキャリアンカーを意識させる必要がある。
(3) 高校生へのプログラム
 高校生に実施するキャリア教育では、具体的かつ現実的なキャリアデザイン作成をしていく必要がある。
 高校生は、自我の確立で揺れ動いている不安定な時期であるが、内省により自分を見つめ、生き方を選択し、生き方の方向性を自己決定していく大切な時期でもある。「好きなことは何か(職業興味)」、「したいことは何か(欲求・価値観)」、「できることは何か(能力)」を<内省>していき、<活動>を経て自分の個性を自覚した上での職業マッチングをする必要がある。
 <内省>では、NHKで放映された「プロジェクトX」などを活用した人生のモデリングづくり、自分の生き方を振り返り、将来をイメージする人生曲線などを実施する。特に、高校では人生を職業生活と個人生活の両面で捉えていき、その中で就職、結婚、子育てなども、考える場面も必要である。
 <活動>では、職業体験・ゲストティーチャー説明会の企画・運営を高校生が中心となり実施する。高校では、キャリアンカーやキャリアデザインの内省だけでは不十分である。体験を通して、自分には何が向いているのか、発見させることが肝要である。

2.体験型のキャリア教育の必要性

 下記の図は、エドガー・デール(1969)による「24時間後に、どの程度記憶しているか?」を示している。
 24時間後に残っている記憶は、読んだことは10%、聞いたことは20%であるのに対し、実体験は90%となっている。つまり、キャリア教育における職業体験および様々な体験的な活動は、子どもへの影響力が大きいと予想され、必須のプログラムといえる。(1) モデリング教材の活用
 キャリア教育において、モデリングは重要である。
 素敵な人生を歩んでいる人は、「こんな人になりたいな」、「こんな仕事をしてみたいな」と思える、人生の方向性を決めるきっかけとなった出会いがある場合が多い。著者は、教員を目指す学生に対し「どうして教師になろうと思ったか」をアンケートしたことがある。すると、多くの場合、小・中・高校時代に素敵な教師と出会っており「生徒指導で厳しかったけど、悩んでいた時じっくり話を聴いてくれた」、「いじめられた時に、時間をかけて解決してくれた」、「学校祭で、私たち生徒と一緒に活動してくれた」など理由は様々であるものの、出会った教師からのモデリングがあった。
 キャリア教育においてのモデリングでは、生徒のモデルになる人との出会いを、意図的に出現させる目的がある。具体的には、総合的な学習の時間や道徳の授業で、偉人・スポーツ選手・有名人の生き方をテレビ・DVD・画像を用いて、「様々な困難から逃げずに対峙し、苦労して乗り越えていく生き方」を伝える方法がある。
 テレビ・DVDをただ視聴するのではなく、その後、グループで感想を述べ合い、全体でシェアリングすると更に効果的である。
(2) サイコエジュケーション(心理教育)
 サイコエジュケーションとは、心理教育とよばれる思考や行動の教育である。レクシャー(講義法)、視聴覚教材、ワークシート、ロールプレイなどを活用して学んでいく。「将来、どんな人はなりたいかのか」、「どんな職業に就きたいのか」など将来のライフプランを考えさせる。
 従来の進路指導では、「自分はどんな価値観を大切にしているのかを書きなさい」というワークシートを用いて、キャリアンカーの意識化させる取り組みをしていたが、自己肯定感が低く将来の夢を描けない子どもは苦慮することもあった。そこで、ワークシート、インタビュー、カードゲームを活用したサイコエジュケーションで、友だちと交流をしながら、ステップを踏んで楽しんでキャリアンカーを考えることができる取り組みが必要である。
(3) 小中連携・異学年交流によるピア・サポート
 小学校と中学校とが連携したピア・サポートの実践報告が増えてきている。
 実施内容は、中学生が小学生に対し、ワークシートを活用し九九を教えたり、プール学習や遠足をサポートしたり、入学準備として中学生が小学校6年生を対象に説明会を開くなどである。小学生は「中学生はかっこいいな」、「はやく中学生になりたいな」と、感じることでモデリング効果があり、中学生にとっても自己成長を促す効果があると報告されている。
 異学年交流では、小学校では6年生が1年生の体育のサポートをしたり、中学3年生が中学1年生の学習サポートをしたりすることも、モデリング効果がある。これらのピア・サポート実践も、キャリア教育の一環として位置づけることができる。
(4) インタビューを通したキャリア教育
 文部科学省は、キャリア教育で育成を目指す能力に「意志決定能力」、「人間関係形成能力」、「情報活用能力」、「将来設計能力」の4つを挙げているが、職業インタビューを通すことで、これらの能力を育成することが可能である。
 例えば、生徒が町にでて、様々な職業の人にインタビューし、それをまとめ発表する実践を行う場合、まずインタビューでは、「いつ・どこで・だれが・何について・なぜインタビューするか」を決める必要がある。これにより「意志決定能力」が養われ、実際のインタビューでは、あいさつ、自己紹介、インタビューの目的などを相手に伝える「人間関係形成能力」が養われる。
 その後、インタビューで聞いた事柄をまとめ、わかりやすいプレゼンテーションを試みることで「情報活用能力」養われ、これらの活動全体を通して、キャリアモデルを獲得することで「将来設計能力」を養うことができる。
 その他のキャリア教育でも同様に、今まで実施してきた進路指導の取組を、4つの能力の視点から組み立て直し、具体的な行動化を図ることが可能である。
(5) ゲストティーチャー
 ゲストティーチャーでは、様々な職業の方々に来て頂き、それぞれの人生を語って頂くことで、勤労の価値や仕事によって人は成長することを学ぶことを目的としている。
 まず、「どのような職業の話を聞きたいのか」を生徒自身がアンケートを作成・実施・集計し、ゲストティーチャー候補を決める。その後、生徒はゲストティーチャーへの依頼の電話連絡をする。電話連絡に関しては、教師から事前にゲストティーチャーに連絡をしておき段どりを整えるが、当日は司会進行・ゲストの案内・お茶出し、接待までを生徒たち自身が担当する。こうすることで、日常の基本的な生活習慣といわれる、あいさつ、言葉づかい、時間管理力、人前で話す力が向上する。ゲストティーチャーは、中学校を卒業した先輩でも効果があるため、進学校に行った先輩、工業高校に行った先輩、中学校卒業後すぐに就職した先輩など、様々な卒業生を招くとよいだろう。
高校説明会で、高校教師を中学校に来て頂く場合も、ゲストティーチャーの時と同様に司会進行、案内などをさせる。中学生はかなりの緊張感をもって取り組みが、進路の自覚も高まる。

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