PISA型学力とフィンランドの教育2

 目次
1.PISA型学力
 (1) 日本におけるPISA型学力の推移
 (2) 勉強が楽しくない日本
 (3) 東アジア独特の「スクール形式」
2.フィンランド
 (1) 国家のグランドデザインとしての教育
 (2) 授業時数が世界一短いフィンランド
3.記憶のピラミッド
 (1) どうすれば記憶に残るのか
 (2) 殆どが記憶に残る「実体験」
4.学習形態と学力別にみた学習意欲の比較 ~協同学習が好きな子供たち~
5.協同学習のエッセンス
 (1) 協同学習の流れ
 (2) 授業の中でコミュニケーション能力を高める
6.協同学習の位置づけ
 (1) グループ学習の失敗
 (2) 協同学習における座席

1.PISA型学力

(1) 日本におけるPISA型学力の推移
 現在は様々な国で実施されているPISA型学力ですが、この中の「数学的リテラシー」は2000年当時、日本が世界第1位でした。「科学的リテラシー」も世界第2位だったんです。日本の子供たちは学力が大変高かったんです。これが2006年になると、「ゆとり教育」の影響で、学力が大きく下がりました。その後は、総合学習などが削減され、理科と数学が増えましたので、順位が2000年当時に近づきつつあるという状況です。

(2) 勉強が楽しくない日本
 これは2003年におけるIEA国際教育到達度評価学会による数学と理科の調査結果です。参加しているのは46か国、調査対象は小学4年生と中学2年生です。
 算数の勉強が楽しいと答えた日本の小学4年生は46か国中で下から2位、中学2年生も下から2位、理科の勉強が楽しいと答えた小学4年生は46か国中で下から3位、中学2年生も下から3位です。日本の小学生も中学生も勉強が楽しくないのです
 また、中学2年生の放課後の時間の使い方では、「宿題をする」と答えたのは46か国中で46位、「テレビ・ビデオを見る」と答えたのは46か国中で1位です。この調査を行った時に、テレビゲームが入ってなかったのですが、もし入っていたら、断トツの1位だった可能性があります。

(3) 東アジア独特の「スクール形式」
 日本の子供たちはとても勉強ができますが、世界一、勉強が嫌いな国でもあるのです。
実は、日本と同じような国と地域が世界に4つあります。まずは韓国です。そして台湾、シンガポールに香港です。ちなみに中国はこの年に調査を行っていません。つまり、全て東アジアに集まっているのです。東アジアの勉強スタイルは「スクール形式」と呼ばれ、教師が前にいて、黒板があって机と椅子があるという、日本でも馴染み深い作りです。
 私は、アメリカや北欧諸国などの学校を見学に行きますが、まず黒板が存在しません。黒板があるのは東アジアだけです。また生徒はグループで着席していますので、最初から協同学習のスタイルになっていて賑やかに授業をしています。先生が一生懸命に板書しているのは日本だけです。詰め込み式ですので、それなりに勉強はできるようになりますが、このようなスタイル以外の方法にも、気づきを得ることが大切ではないかと思います。

2.フィンランド

(1) 国家のグランドデザインとしての教育
 現在はシンガポールに追い越されましたが、2000年代初頭ではフィンランドがPISA型学力で世界一でした。フィンランドは資源がない国のため所得水準が低く、若者が出稼ぎに行くことも珍しくはありませんでした。このままでは国が滅びると考えた若き文部大臣が立ち上がり、教育を国家のグランドデザインとして位置づけ、様々な教育改革を断行していきました。私もその方にお会いする機会があったのですが大変情熱的な人でした。
 フィンランドでは教育だけではなくIT産業の育成にも取り組みました。携帯電話会社のノキア社は、今や世界最大のシェアを誇っています。

(2) 授業時数が世界一短いフィンランド  
 フィンランドでは少人数学習や個別指導、協同学習が実践されています。私が3年ほど前にフィンランドに視察に行った際に驚いたことは、能力別学習も高校入試も実施されていなかったことです。フィンランドは北欧独特の「平等」の考え方をとっています。また、高校もほとんどが同じレベルで、自宅近くの高校に通学する場合が大半です。
 そして、フィンランドでは総合学習に多くの時間が費やされています。日本の場合は、総合学習が批判されて削減の一途を辿っていますが、フィンランドはボランティアなどの総合学習が大変に盛んです。
更に、フィンランドは授業時数が世界一短いのに、世界一学力が高いのです。これは、授業のやり方が本質的に違うということ、言い換えれば、学力を向上させるためのコスト・&パフォーマンスが抜群に良いことを表しています。
日本では、総合学習の時間も削減して土曜日も授業を行うべきだ、などと文部科学省が提唱していますが、授業時数を単純に増やせば良いという次元のものではありません。

3.記憶のピラミッド


(1) どうすれば記憶に残るのか

 「人は24時間後にどの程度記憶しているか?」と言えば、「エドガー・デール」の説を連想される方も多いと思います。彼の説では、読んだことや見たこと、書いたことの30%程度、映画や掲示物、デモンストレーションを見たことの50%程度を記憶しています。 
 また、討論に参加した場合は70%程度を記憶しています。この説を踏まえ、私が各地で講演をする場合は、参加された皆さんが、必ず隣の方との討論を行うようにしています。一方的な講義では大半の方が寝てしまい、記憶に残らない睡眠学習になってしまいます。

(2) 殆どが記憶に残る「実体験」
 ロールプレイやシミュレーションなど実体験をした場合は90%近くを記憶しています。「ソーシャルボンド」について前述しましたが、これはコミュニケーションスキルなどを向上させる実体験です。だから参加した児童・生徒は、この大半を覚えているのです。
 日本の授業は先生を中心として「読む・見る・書く」の受動的な学習が一般的ですので、記憶に残りにくいという欠点があります。フィンランドの授業は積極的に参加する能動的な学習が一般的ですので記憶に良く残ります。そのため授業時数が少なくても学習効果が大きいという結果に結びついているのです。

4.学習形態と学力別にみた学習意欲の比較 ~協同学習が好きな子供たち~

 これは、ある高校の「学習形態と学力別に見た学習意欲の比較」というデータですが、縦軸に「学習意欲スコア」、横軸に「学業成績」が取られています。「学習意欲スコア」は、「今日の授業が楽しかった」「良く理解できた」「一生懸命、参加できた」などの数値です。「学業成績」は上位、中位、下位といった成績で分けられています。上方にあるグラフは「協同学習群」、下方のグラフは「その他の形態」ということで、一斉授業に該当します。
 このデータを見ると、学業成績が上位の生徒も下位の生徒も、協同学習が好きなことを示しています。ここにはデータがありませんが、小学校の場合は「協同学習群」のグラフがもっと上方に位置していて、協同学習への参加意欲が大変に旺盛です。
 つまり、どんな児童・生徒も協同学習が好きなのです。しかし、協同学習を実施すると、必ず先生方から「授業が遅れるかもしれません」「ワイワイさせるより、静かにさせる方が楽です」と言われます。勿論ですが、全部の授業で協同学習を実施する必要はありません。 
 また、50分授業の中で50分間全てを協同学習に充てる必要もありません。「この単元であれば可能かな」「ここの部分だけやってみよう」という限定的な協同授業で良いのです。
そうすれば、普段よりも更に授業内容を良くすることができると思います。

5.協同学習のエッセンス

(1) 協同学習の流れ
 上の図は協同学習の流れを示したものです。先生が全員に「説明」することから始まります。その説明を聞いて子供たちが1人でじっくり考えます。これが「個人思考」です。そしてグループで相談して更に考えを深めます。これが「グループ思考」です。グループで考えたことを全体でシェアして考えます。これが「全体思考」です。「あぁこうなんだ!」と、最後にもう一度自分で考えます。これが「個人思考」です。
 協同学習はこのような流れを呈していますが、重要なポイントは「個人思考」が入っていることです。これが何の説明もなく「さぁ相談しなさい」と丸投げする「グループ学習」の場合ですと、何も思考せずに「あいつに任せとけばいいや」「俺わかんないし、この問題」と放棄する子供が出てしまいます。
 しかし、「個人思考」の場面があれば、どんな子供でも一度は考えなければなりません。この「個人思考」が存在するか否かが「グループ学習」と「協同学習」の大きな違いとなります。

(2) 授業の中でコミュニケーション能力を高める
 子供たちのコミュニケーション能力は、昨今、低下の一途を辿っています。それは疑うまでもなく、1日中ゲームばかりしているからです。
 「水泳」は「水泳」をするから泳げるようになります。水泳の本を読んだだけで泳げるようになる人は殆どいません。「自転車」も「自転車」に乗って、感覚を掴むことで乗れるようになります。「コミュニケーション」は「コミュニケーション」をさせることによって、その能力が高まるのです。これは「協同学習」と「グループ学習」の双方に該当することですが、授業の中でコミュニケーション能力を高めていくことが重要です。

6.協同学習の位置づけ

(1) グループ学習の失敗
 「グループ学習の中の協同学習」。
 これが協同学習の位置づけです。
 日本では、小学校でグループ学習を実施しましたが、学力は伸長せず、単にクラスが賑やかになるだけでした。従前の「アクティブラーニング」という言葉が使われなくなった理由はここにありますが、協同学習のスタイルが正しく確立されていなかったことが大きな課題となりました。

(2) 協同学習における座席
 協同学習では「6人席」と「4人席」のどちらが望ましいと思いますか。これは「4人席」です。もし「6人席」の角にリーダーが座っている場合、リーダーの隣に座る子供を含めた4人に話が集中して、残りの子供2人が孤立します。しかし「4人席」であればそれを防ぐことができます。効果的な協同学習を行うためには座席にも配慮する必要があります。

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