先生を馬鹿にする生徒への対応 ~学級崩壊を防げ~ 

 目次
1.学級崩壊を社会学の「限界質量」で分析
2.教師を馬鹿にし学級崩壊の中心にいるA子への対応
  (1) 第三者によるチーム支援が必要
  (2) 現実療法的対応(3Rを救える)が有効
  (3) 現在療法は選択理論へと発展
  (4) 教師をバカにする親は、子供も教師を馬鹿にする
  (5) 心と体を癒す(身体性の重視)
3.馬鹿にされてしまう教師のサポート
  (1) 情報のクロス化
  (2) 教師の成長課題

4.心を育てる

 教師を馬鹿にする生徒は、意外に多い。そのような教師は、授業や生徒指導、学級経営で苦労し、学級崩壊になりかねない。生徒の視点から見れば、「授業で何をしゃべっているのかわからない」「時間にルーズ」「生徒にすべき連絡をすぐ忘れる」「生徒とコミュニケーションが取れない」などの、生徒なりの理由がある。そのような教師は、年齢、性別に区別はない。ベテラン教師でも、馬鹿にされる対象となり、学級崩壊となる。教師を馬鹿にする生徒への対応には、教師と生徒の両方へのアプローチが必要である。

1.学級崩壊を社会学の「限界質量」で分析

 いじめは、傍観者が学級の10%以内なら成立しにくく、30%を占めるといじめは定着化するとの研究がある。いじめの成立と維持には、傍観者群の比率が問題となる。いじめばかりでなく、学級崩壊や、学級が教師を馬鹿にする雰囲気も「限界質量」で説明できる。小学校の学級崩壊では、ある一定以上の人数の児童が担任の指示に従わなくなると、学級崩壊がエスカレートしていく。同様に、生徒が教師を馬鹿にするのは、ある一定以上の人数の生徒が「この教師は馬鹿にしてもいい教師」と認知した場合、教師を馬鹿にする学級の雰囲気は固定化され、改善は困難になり、エスカレートし学級崩壊へ発展していく。一度、学級崩壊をした学級を担任だけで改善させるのは、ほぼ不可能である。では、どのようにサポートしていくのか。

2.教師を馬鹿にし学級崩壊の中心にいるA子への対応

 中学生のA子は自己中心的で、教師に対しても常に攻撃的だった。教師を攻撃することで自己の存在をアピールした。とくにA子は、担任のB教師をいつも馬鹿にした。授業中は、私語を繰り返し、勝手に座席を移動し、B教師の注意はすべて無視する。廊下でA子がB教師と出会うと、みんなの前で、教師を馬鹿にした言動をとる。A子に同調し、多くの子供がB教師に反抗的になった。学級崩壊の始まりである。B教師は40代の男性教師で、性格はまじめで温厚である。

(1) 第三者によるチーム支援が必要
 学級崩壊した学級を担任だけでは、改善できることはほぼ不可能といえる。生徒と教師の人間関係の修復には、危機介入として、第三者の教師のチーム支援が必要である。A子の主張の中にも、正しい部分、自己中心的な部分、思い込みの部分、感情的な部分がある。一つ一つについて、解決を図った。説得と納得は違う。教師がどんなに熱心に鋭得しても、A子が納得しなければ、A子の行動は変化しない。説得しても無駄である。教師には、生徒が納得できるような、アプローチが必要である。A子自身のB教師への対応について、反省させることを試みた。しかしそう簡単には、A子は自分のとった自己中心的な言動は認めようとはしない。そのような生徒には、現実療法的対応が効果的である。

(2) 現実療法的対応(3Rを救える)が有効
 現実療法とは、アメリカのグラッサーが、少年院で治療に用いたカウンセリング(心理療法)である。非行に走る少年たちに欠けている教育的側面、現実性(Reality)、責任感(Responsibility)、善悪の区別(Right and wrong)の3つを3Rとして強調した。いたずらに相手に寛容にならず、責任と現実をカウンセリングの中に求めた。厳しさと包容力に溢れるカウンセリングで、数師に最も向いているスタイルと考える。「今、している行動は、いいことなのか、ダメなことなのか」を、愛情豊かに迫るカウンセリングである。

(3) 現在療法は選択理論へと発展
 選択理論とは、人生はすべて選択で決まる。結婚も、離婚も、どの学校に進学するかも、授業をサボるのも、今日、どのように過ごすかもすべて選択である。小さな選択の積み重ねが、人生を決めるという理論である。そこで教師は、子供たちにいい選択をさせる、促すことが肝要となる。気持ちはわかるが行動は認めない。大阪弁で言うと「わかるけどアカン」。A子のB教師に対する批判の一部は理解できる部分もあるとしながらも、A子のB教師に対する言動は間違っていることを気づかせた。「A子のことが大切だから注意するんだよ」と教師の愛情あふれる態度がその前提にあるのは言うまでもない。

(4) 教師をバカにする親は、子供も教師を馬鹿にする。
 A子の親は、学校批判が強い親であった。A子は、親から「学校の教師は、ダメだ」ということを常に言われ続けていた。そのような環境の中で、A子自身も、教師批判の目と自己中心性を芽生えきせてきた。教師を馬鹿にする生徒への対応には、常に親の存在も意識する必要がある。A子との教育相談の中で、家庭では安らげないことも判明した。家庭でのいらだち、心の疲れが行動化(問題行動)に繋がっているのである。

(5) 心と体を癒す(身体性の重視)
 A子は、心の疲れがいらだちを高め、耐性が低下し、身体や行動に問題が現れていた。教育相談とストレスマネジマントを併用し、A子の心と体のリラクゼーションを継続した。A子のストレスや心の疲れが、意識低下・思考低下・怒り・無気力になっている場合がある。教師は、生徒の身体性についても、注意を払う必要がある。A子は、自己肯定感の低い生徒であった。自己肯定感を高めるためには、小さな成功や成長に対して、結果・努力・能力をほめていくことが効果的である。教師の言葉は心のビタミン剤となる。

3.馬鹿にされてしまう教師のサポート

 生徒に馬鹿にされている教師は、誰にも相談できず、一人で悩んでいる場合が多い。相談することがはずかしい、かっこ悪いと考えている。授業が成立できなくなったり、学級崩壊となる危険性もあるので、早期の対応が必要である。生徒に馬鹿にされる教師は、自信を失い、自己肯定感も低く、孤立感も高い。何気ない会話からの気遣いが必要である。

(1) 情報のクロス化
 B先生はA子との人間関係のつまずきから、学級の生徒との人間関係が悪化した。私は授業中に「みんなの担任のB先生は、本当にみんなのことが大切なんだよ。昨日もいい学級だって自慢していたよ。とってもいい先生だね」とポジティプなメッセ-ジを伝えていく。教師の価値を高めていくことによって、生徒と教師の信頼関係を再構築する作業を行った。一方的にしか教師を理解していない生徒に、別の情報を入れること(情報のクロス化)で、生徒の認知に変化が生じる。

(2) 教師の成長課題
 教育相談でA子の不満は、B教師に伝えることを確認した。B教師にA子の主張を伝えることは、かなりの技術を要する。教師の自尊心を尊重しながら、B教師の課題をB教師自身が気づくように心がけた。授業や生徒への対応についての生徒の不満は、教師自らに与えられた成長課題と捉える必要がある。

 私は多くの教師を見てきた。学級経営が上手い教師は授業も上手い。学級経営が下手な教師は授業も下手だ。学級経営が下手な教師で、授業が上手い教師を見たことがない。ではその差はどうして生まれるのか? 若い教員時代に、「高学年の学級担任はできません。」「問題を抱える子供がいる学級担任は嫌です。」「担任はしたくありません。副担任ならします。」など、子供たちから逃げる教師がいる。そのような教師は、30代、40代になっても成長できていない。そしていい年になっても、学級崩壊を毎年起こす、教師がいるのも事実である。

 教師は子供たちから逃げない覚悟が必要である。プロ教師と言うと、何でもできる優れた一部の教師をイメージするかもしれない。それは違う。教師になった時点で、全員がプロ教師である。教師という職業で給料を頂いて生活するのである。アルバイトではない。

4.心を育てる

 過ちは過ちを犯すから学べる。実は私もいっぱい失敗してきた。A子は、教師から聴き取られる喜びを感じ、自らの過ち、失敗を乗り越える経験をすることで、自己の成長の小さな歩みをしていった。受容・共感的な関わりを土台に、現実療法・選択理論を用いて、心を揺さぶることが必要である。教師は子供の心を育てる意識が肝要である。心を育てるとは、人格的に成長させることである。困難な現実に直面しても、現実と対峙できる自分になれるということである。生徒は直面する問題、課題をしっかり受け止め、向き合うことにより、たくましい心を育てる。我々、大人も現実から逃げずに生きていかなければならない。

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