集団で反抗する生徒への対応~予防的アプローチの4つのポイント~

 目次
1.集団で反抗する生徒への理解
2.生態学的、心理的な視点での理解
 (1) 攻撃性のメカニズム
 (2) ディスプレーとしての反抗
3.集団で反抗する生徒への危機介入
4.学校体制による予防的アプローチ ~自己肯定感を高める~
 (1) 自己肯定感を高める
 (2) 全校体制の教育相談週間
 (3) 生徒によるサポート体制
 (4) ストレスマネージメント教育
5.反抗も、発達課題としてとらえる

執筆日…2002年(平成14年)
 暴力行為は、平成13年度は3万8千件、対数師暴力は5千件と、学校での生徒指導は、依然として困難を極めている。地べたをはいずり回る生徒指導は、もうこりごりである。本校では、効果的な援助のストラテジ(戦略)を実施している。

 第一次援助では、自己肯定感、自己理解、他者理解を高める予防的プログラム(教育相談週間、ピアサポート、構成的グループエンカウンター等)を全学級で実施し、生徒全体の適応を図る。
 第二次援助では、特別な援助を必要とする生徒(非行や不登校など)を、担任を孤立させることなくチーム援助で対応する。具体的には、「いつ・どこで・だれが・なにをするか」を決定しチーム(校長・学年主任・養護教諭・スクールカウンセラーなど)で支援する。
 第三次援助では、生徒指導の困難な生徒(重度の非行や発達障害)を、学校のみで生徒を抱え込まず関係機関(児童相談所・警察・福祉・医療など)と連携して援助する。具体的には、関係機関の特性や関係法規を把握し、情報連携・行動連携を推進する。
 一人ひとりの生徒に自己表出場面を設定し、社会的承認欲求を満たす予防的プログラムを学校の教育課程に位定付けることが必要である。

1.集団で反抗する生徒への理解

 集団で反抗する生徒への対応には、三つの視点が必要である。
 第一は、攻撃性の生態学的、心理学的特性を理解する必要がある。
 第二は、個は集団で育まれる。集団で反抗する生徒も、集団の中で育てていくことが必要である。
 第三は、攻撃性をコントロールすることを学ばせる予防的アプローチが必要である。

 これらを踏まえ、アセスメント(診断)を的確に行い、効果的な対応プログラムを作成する。

2.生態学的、心理的な視点での理解

(1) 攻撃性のメカニズム
 思春期は、性と攻撃衝動に突き上げられ、体ごと変化していく時期である。攻撃性は、生態学的にプログラムされた行動バターンである。個体の生存を脅かされたり、子孫の繁殖を妨げたりする相手に対しては、攻撃行動が起こる。これを抑圧するのは難しいし、抑圧するべきものではないが、コントロールの仕方を学ばせ、攻撃行動として発動しないようにする教育が必要である。
(2) ディスプレーとしての反抗
 集団で反抗する生徒は、必ずディスプレーをすると考えた方がよい。ディスプレーとは、チンパンジーが仲間に自分の力を見せつけるための行動で、走り回ったり、木を倒し石を投げたり、大声を出したりする。リーダーとしての確固たる地位を築くための威囁行動であり、ケンカをせずに力関係を決定する手段でもある。同じように非行生徒は、髪型、服装で目立とうとし、自分たちの存在を誇示しようとする。反抗する生徒は、教師に対して暴言を吐いたり、机を蹴ったりすることがあるが、これもディスプレーと考えられる。

3.集団で反抗する生徒への危機介入

 集団で反抗する生徒たちは、教師がおののく、こびることへの快感がある。生徒にとってはゲームとなっている場合もある。教師は生徒の言葉に巻き込まれ、過剰反応しない。教師の挑発的な言動は、さらに生徒の過剰反応を引き起こす可能性がある。人間には、パーソナルスペースがあり、必要以上に距離感が近いと、進入された感覚を持ち、不愉快になりキレる恐れがある。その生徒をキレさせないことは、その生徒を守ることにもなる。生徒がある教師に暴言を浴びせている場合は、その教師を移動させる。暴言の対象者をなくすことで、興奮をを沈静化させる。しかし、生徒は、反抗しながらも、罵声を浴びせながらも、共感してほしい、話を聴いてほしい、自分のことはわかってもらいたいという願望があることを忘れてはいけない。

4.学校体制による予防的アプローチ ~自己肯定感を高める~

(1) 自己肯定感を高める
 集団で反抗する生徒たちは、自己肯定感の低い生徒が多い。家庭でもほめられることはなく、学校でも教帥に暴言を吐いたり、壁を蹴ったりすることによって、自分の存在感を示す。自己骨定感を高めるために必要なのは、教師や親の声かけである。教師がほんの小さな変化にも気づき、「今日は授業態度よかったよ」「掃除当番、頑張ったね」と小さな変化を言語化して伝えていく。学校では、教育活動を通して成功体験を味わわせることが大切である。学校祭や球技大会の行事や、日常の学校生活で自己表出場面を設定し、社会的承認欲求を満たしていくことを効果的に行う。
(2) 全校体制の教育相談週間
 集団で反抗する生徒も、心理的状態がよい時期はある。その時期に教育相談活動を通して、自分がまわりの人間からサポートされていることを認識きせることが効果的である。親や教師、友だちが自分の味方であること、いぎというときに援助、支援してくれることを認放させる。
(3) 生徒によるサポート体制
 個は集団で育まれる。集団で反抗する生徒の対応は、教師のみでなく、生徒同士のアプローチが有効である。攻撃的な集団がいる場合、教師が一方的に解決を目指すのではなく、学級、学年全体の誅邁として捉え、集団の成長を図る。
(4) ストレスマネージメント教育
 自分がストレスに思っていることを無記名で書いてもらい、回収し黒板に集計する。たとえば、勉強やテストをストレスに感じる(23名)、友人間係(10名)などと、結果をまとめていく。その悩みの解決方法を小グループで討議する。悩みを分かち合うだけでなく、解決方法の気づきとなる。反抗的なグループのM雄も自分のストレスを自己開示し、カタルシス(浄化)ができ、表情も穏やかになった。M雄のまとめには「みんな同じことに悩んでいるんだ」と一言書かれていた。M雄は、自分だけがイライラしているのではないとわかり、安心感を得ていたようである。

5.反抗も、発達課題としてとらえる

 思春期の子どもたちは、自己とは何かを求めるために行動化(acting out)を起こすといっても過言では
ない。内面的処理の仕方、葛藤の仕方、悩み方がわかっていないのである。それができないために、集団化し仲間で癒し、反抗という形で表現する。思春期の真っ只中にいる生徒は、失敗、挫折を繰り返しながら成長していく。教師は、人生の伴走者として、常に生徒の応援団でいたい。

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