SELで、人の気持ちがわかる子どもを育てる

 目次
1.SEL(Social and Emotional Learning)
2.情動の理解から対人関係のスキルへ
 (1) 人の気持ちを理解する①
 (2) 人の気持ちを理解する②
3.社会的情報処理の過程
 (1) 社会的情報処理の過程
 (2) 感情の理解こそ「SEL教育」
4.SEL教育
 (1) 男の子の表情
 (2) ストーリーを作ろう
5.感情語の変化(4か月実施)
6.気持ちを表現できる「作文」
 (1) 作文①「心あたたまる気持ち」
 (2) 作文②「すっきりした気持ち」

1.SEL(Social and Emotional Learning)

 「SEL」とは「Social and Emotional Learning」の頭文字を取ったもので、「社会性の育成」として幅広く認知されています。

2.情動の理解から対人関係のスキルへ

(1) 人の気持ちを理解する①
 皆さんは上の写真に写っている方を見て、この方が今、どんな気持ちだと思いますか?
「失敗して悔しいなぁ」という気持ちですね。しかし、人の気持ちが分からない子供たちに聞くと「おなかが痛い」と言います。
また、数学が分からない子供に対して、「数学勉強しろ」と言っても勉強ができるようになりません。しかし「ここの部分はこうだよ」と丁寧に教えると理解することができます。
つまり、人の気持ちが分からない子供に「人の気持ちを分かれ」と言っても、どういう意味なのか分からないのです。それは、人の気持ちが分かるようなトレーニングをしていないからです。それを実践するのが、社会性の育成を本旨とした「SEL教育」なのです。 
「SEL教育」を通じて、子供たちに人の気持ちが分かる教育をしようということです。何もしなければ、人の気持ちを理解することは不可能です。

(2) 人の気持ちを理解する②
 この黄色い服を着た男性の画像を見て、この男性は今、どんな気持ちだと思いますか?
 普通なら「達成感に満ち溢れている」「とてもうれしい気持ち」と答えると思うのですが、発達障害の子供たちに「この人は今、どんな気持ちだろう?」と、質問すると「歯を食いしばっています」と答えます。部分的に見ることはできますが、全体を見て想像する力が弱いのです。だからこそ「SEL教育」でトレーニングを実践する意義があるのです。

3.社会的情報処理の過程

(1) 社会的情報処理の過程
 情報処理と言えば、入力に始まり、処理をして、出力をするというのが通常の流れです。
 これを人間の感情に置き換えると、入力は「感情の理解」であり、今の子供たちは極めて弱いです。特に、発達障害のある子供やキレる子供たちに多く見受けられますが、最近は普通の子供たちも感情を読み取る力が弱いです。これはゲームに夢中になっていることの悪影響も否めません。
 そして入力後、いわゆる「感情の理解」をした後の処理が「感情のコントロール」です。「これを言ったら相手が傷つくだろうなぁ」「ここは俺、我慢しないといけないなぁ」など心の中で呟く状況です。最後に出力である「感情の表現」です。ちょっと怒ってみたり、悲しんでみたり、あるいは喜んでみたり。そのような「喜怒哀楽」の表れです。
(2) 感情の理解こそ「SEL教育」
 日本の教育では、感情の表現である「ソーシャルスキルトレーニング」が良く実施されていました。「相手を傷つけない」「上手な断り方ができる」などがその代表例です。
しかし、感情の表現の前に、そもそも「感情の理解」ができていないので、そのスキルが身に付かないのです。そして「感情のコントロール」も、これまでに結構やっています。しかし、入力である「感情の理解」ができていないので、人の気持ちが分からないのです。だからこそ「感情の理解」を「SEL教育」でトレーニングすることに意義があるのです。
 「SEL教育」が最も盛んであるシンガポールでは、人を育てて人の気持ちが分かる人にしようというのが大きな柱となっています。もちろんアメリカやカナダなど、世界中で「SEL教育」が行われています。日本では先述した岡山県総社市や新潟県新潟市、岐阜県岐阜市、宮城県石巻市、他にも九州のいくつかの自治体で行われています。

4.SEL教育の実践

 クラスの中には攻撃的な子供や自分勝手な子供がいますが、その子供たちは大抵の場合、自分の気持ちが理解できない場合が多いです。だからこそ、「SEL教育」を実践することに意味があります。この「SEL教育」には自分の気持ちを正しく理解するプログラムが豊富に存在します。
 また、引っ込み思案な子供や自己主張ができない子供は、他人の感情を理解する経験に乏しい場合が大半です。一見して何も問題のなさそうな普通の子は、今や家の中でゲームばかりしているため、他者と関わる機会が極端に少なく、日常生活において人の気持ちを理解することが難しいのです。そのような子供は「協調性」や「共感性」にも乏しいです。
 「SEL教育」を行うことによって、いじめが少なくなったり、不登校が少なくなったりと、悩ましい問題が次々と解決されています。
(1) 男の子の表情
   私は「この男の子の表情はどんな感じ?」と、子供たちに質問して議論させています。皆さんも顔の表情だけを見て、この男の子が今、どのような状況なのかを考えてください。喜んでいるようには見えませんね。この男の子、実は次の写真のような状況なのです。
 わかりますか?
 この男の子は2人の子供たちに囲まれて、一方の子供に胸倉を掴まれるなど、いじめられているようにも見えます。このようなことを読み取るのが「SEL教育」なのです。これは写真ですが、小学生用のプログラムではイラストを使用しています。
(2) ストーリーを作ろう
 フードを被った子が写っている写真が3枚あります。この写真を使ってどのような物語、ストーリーを作ることができるでしょうか?これには正解がなく、何でも結構です。
 子供たちにはストーリーを作らせることが望ましいです。「僕は、悲しい気持ちだった」「とても嬉しい気持ちだった」「友達とケンカしちゃった」「お母さんに怒られた」など。
 そのようなストーリーを子供たちに自由に作らせ、学ばせることで、情緒的な思考をより一層深めていくことが可能になります。

5.感情語の変化(4か月実施)

 実際に「SEL教育」を実践すると、子供たちにどのような変化が見られると思いますか?この写真は「自分の気持ちを書いていく」というプログラムを導入する前と後で比較したものですが、ご覧の通り、プログラム導入前は全く書くことができません。
 ところが、プログラム導入後は「ガーン」「チーン」「悲しい」「ばりばりでーす」「うれしい」「じゃーん」「なんだこれ」など、少しずつ書けるように変化しています。
人の気持ちを理解して、それを自分の言葉で表現することができない子供が本当に多いということを改めて実感して頂けると思います。

 プログラムが次のステップに進むと、この写真のようになります。先程の「感情語」が格段に増えていることがご覧頂けると思います。「あたたかい」「ガーン」「苦しい」「うそ!」「おっ」「びっくり」「やりたくない」「うれしい」と、感情豊かな表現の言葉がびっしりと書き込まれています。
 子供たちが書き込んだ「感情語」を良く観察してみると、拡大部分では「感情語」が、増えているのがお分かり頂けると思います。「びっくり」と書き込まれた後に、「おどろく」「いやなことがあって」「たのしい」と、更に派生させているのです。
このように子供たちの気持ちを表現する言葉を増やしてあげることは極めて重要です。「SEL教育」は小学校の低学年が最も有効です。私は今、様々な学校で実践していますが、小学校の低学年でかなりの時間を取っています。そうすると落ち着いた子供になります。

6.気持ちを表現できる「作文」

(1) 作文①「心あたたまる気持ち」
 子供たちが書いた作文を見てみましょう。タイトルは「心あたたまる気持ち」です。
「金曜日の夕方からおばあちゃんと私で名古屋に行く時、道の両脇にイルミネーション
があって、綺麗で心が温まりました。凄くキラキラしていて綺麗でした。余りにも綺麗だったので、もう一度見に行きました。外は寒かったけど心は温まりました」(終)
国語教育においても、自分の気持ちを表現できることは素晴らしいことです。
(2) 作文②「すっきりした気持ち」
 次の作文を見てみましょう。タイトルは「スカッとスッキリしたこと」です。
「昨日、お父さんとさつま芋掘りをしました。僕が蔓を引くと蔓しか取れなくて、土を掘ったらボキって折れてしまいました。それで、お父さんが土やわかくしてくれたので、さつま芋の蔓を引いたら5本もいっぺんに抜けてきました。はぁースッキリした」(終)
さつま芋掘りを体験した時の自分の気持ちを、率直に表現できるように鍛えていけば、この子供のようにスッキリした文章を書けるのです。だから「SEL教育」の入力である、「感情の理解」を重点的に実践することに意義があります。

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