学級経営のコツとUDL (学びのユニバーサルデザイン)

 目次
1.学級経営 (いじめ・学力・スクールカースト)
 (1) 学級経営といじめ、学力の関係
 (2) スクールカースト
 (3) いじめの発見とアンケート
2.UDL(Universal Design for Learning :学びのユニバーサルデザイン)
 (1) 合理的配慮
 (2) UDLの実践

1.学級経営(いじめ・学力・スクールカースト)

(1) 学級経営といじめ、学力の関係
 学級の状態をアセスメントできるQ-U(Questionnaire-Utilities)の開発者である、河村(2007)は、学級経営といじめ、学力の関係を明らかにしました。(図3.3 図3.4)。学級経営には、子供たちが「うちのクラスは楽しいな」と感じている「満足度型学級」、教師が中心となり指導する「管理型学級」、教師と子供が友達のような関係である「なれあい型学級」があります。
 「満足型学級」は、小・中学校ともに学力も向上し、いじめの出現率も低いですが、「なれあい型学級」は小・中学校ともに学力も伸びず、いじめの出現率が高いのです。「なれあい型学級」をつくる教師は、いじめを発見する力が低いというデータもあります。

 では、「満足度型学級」とは、どんな学級なのか。
 それは「学級にルールがあり、リレーションのある学級」です。 ルールは生徒指導上の問題行動だけを意味するものではなく、「掃除当番、給食当番、日直当番のルールが徹底していない」、「昼休みに使用できる学級用のボールを、いつも男子だけが使っている」など、日常の学校生活のルールも含まれます。リレーションは学級に友達がいるか、先生との信頼関係があるかどうかである。このようにいじめによる不登校、学力低下の問題は、学級経営が大きく関与しているため、教師は自分の学級の状態をアセスメントすることが肝要である。
(2) スクールカースト
 スクールカースト(別名:学級内ステイタス)とは、子供たち同士が捉えている、学級内における子供の地位のことです。クラス内に、リーダー、サブリ-ダー、人気者、いわゆる普通の子、非行傾向のある子、孤立している子など様々なステイタスがあります。教師は、このスクールカーストを把握することが肝要です(堀,2015)。
 学校でのカースト(友人間の 上下関係、序列)の存在は、子供たちに自分がこの集団のどの位置にいるのかを無意識に把握させ、 その位置に従って発言や!^することを強要しているのである。スクールカースト下位の子供がいじめの被害者となった場合、クラス内で発言もまま ならない彼らが自らの窮状を教師に訴えることはかなり難しくなる(鈴木,2012)。
 学級崩壊や学級が荒れるのは、学級の問題行動を起こす生徒ばかりに教師の注意が向き、いわゆる中間的な生徒がネガティブなグループの雰囲気に流された場合に起こりやすいです。母集団の状況で学級の状態が変化します。よって、教師は中間的なグループをポジディブグループ側に賛同させる学級経営が求められます。生徒理解とは学級全体の力動性を把握することが必要なのです(堀,2015)。
(3) いじめの発見とアンケート
 生徒理解は、生徒指導の土台です。いじめは、何故なくならないのでしょうか?教師が生徒の心に寄り添い一人一人との信頼関係が構築され、生徒理解ができていれば、いじめ問題はここまで大きくならなかったでしょう。しかし、現実では教師の生徒理解が不十分なために、長年、いじめが解決できていないといえます。大河内清輝君(1994)、鹿川裕史君(1986)のいじめ自殺の教訓を生かせず、大津市のいじめ自殺事件(2011)では、教育委員会の対応を含めて大きな社会問題となりました。いじめの発見は、どのように行われるのでしょうか。
 文部科学省(2020)は、2019年のいじめの発見のきっかけを報告しています。
 「1.学級担任が発見」する割合は、小学校10.7%、中学校9.6%、高等学校5.7%となっています。この数字は担任が子供を十分にみていない結果であり、生徒理解が不足しているといえます。
 「8.児童生徒(本人を除く)からの発見友達からの情報」も小~高等学校まで6%を下回っており、子供たち同士がつながっていないことを示しているため、学級経営では人間関係づくりのプログラムを実施する必要があります。
 一方、いじめの発見のきっかけは、「5.アンケート調査」が一番多く、小学校58.2%、中学校37.6%、高等学校48.2%、特別支援学校45.1%となり、有効であることが示されました。アンケート調査実施における配慮事項としては、「いじめられた人、いじめを見た人は、アンケートに記入してください。」では、周りの目が気になりアンケートに記入することができません。いじめに対する道徳授業などで感想記入といじめのアンケートが一体化している場合は、全員の子供が記入することができます。

いじめの発見のきっかけ(文部科学省,2019)

 

区分

小学校

中学校

高等学校

特別支援学校

1

学級担任が発見

10.7

9.6

5.7

17.5

10.4

2

学級担任以外の教職員が発見(養護教諭・SCを除く)

1.4

5.8

3.4

4.6

2.2

3

養護教諭が発見

0.2

0.7

0.8

0

0.3

4

SC等の相談員が発見

0.1

0.3

0.4

0.1

0.2

5

アンケート調査などの学校の取り組みで発見

58.2

37.6

48.2

45.1

54.2

6

本人からの訴え

15.6

25.2

26.4

19.2

17.6

7

該当児童生徒(本人)の保護者からの訴え

9.5

13.5

8.8

7.3

10.2

8

児童生徒(本人を除く)からの発見

3

5.3

4.3

3.5

3.4

9

保護者(本人の保護者を除く)からの情報

1.1

1.6

1.4

2

1.2

10

地域の住民からの情報

0.1

0.1

0

0

0.1

11

学校以外の関係機関からの情報

0.1

0.2

0.3

0.6

0.1

12

その他(匿名による投書など)

0

0.1

0.3

0.1

0.1

 

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2.UDL (Universal Design for Learning :学びのユニバーサルデザイン)

(1) 合理的配慮
 文部科学省は、「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」を発表し、学習面又は行動面で著しい困難を示す児童生徒の割合は、全体では6.5%、小学校1年生では9.8%と報告しました(文部科学省,2012)。
 2013 年、「障害者差別解消法」の成立により、ひととおりの国内法整備の充実がなされたことから、2014 年、「障害者権利条約」の批准書を国連に寄託し、日本は140番目の締約国とりました。「障害者の権利に関する条約(第24条 教育)」の概要は下記の通りです。
 「教育についての障害者の権利を認め、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容する教育制度(inclusive education system)、生涯学習を確保することとし、その権利の実現に当たり確保するものの一つとして、個人に必要とされる合理的配慮が提供されること。」と位置付けています。合理的配慮には、UDL(Universal Design for Learning :学びのユニバーサルデザイン) が参考になります。
(2) UDLの実践
 UDLとは通常学級における特別支援教育を中心に、「どんな子も教室で活躍し、学ぶことができる」ための授業づくりの枠組みであり、アメリカでは全ての州で取り入れる学習基準に盛り込まれています。UDLはたとえ能力差や障害があったとしても、それぞれの子供の学びを保障し、その能力をそれぞれの子供にとっての最大限に伸ばせるようにすることです。
 その特徴は、子供が自ら学びに向かい、確かな力を身につけるための科学的根拠、教師のマインドの転換を背景に、子供たちが自分に適した学び方の柔軟な選択肢(オプション)を用いる事にあります(Anne Meyer et al.,2016)。
例えば作文が苦手な子は、実は手書きの書写が不得手なのかもしれません。そうであれば、タブレット入力で作文をよりよく書けることにつながる可能性があります。UDLが目指すのは、教師のマインドセットの転換とICTの積極的な活用を通した「子供の学び」本位の授業づくりなのです(バーンズ亀山,2013)。
UDLではICTの活用例が多く挙げられますが、もちろんそれに限らず、視覚的な手立て、体験して実感するといった、これまでの先生方の授業の方略を活用することも含まれます。具体的な内容としては、カリキュラム構成、評価方法、ICT教材の活用、デジタル教科書、授業の可視化、教師の指示の仕方、グループワークの進め方などです。合理的配慮とは、障害のある人学習へのアクセスを保証することであり、UDLとは誰もが学習へのアクセスを保証といえます。

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