協同学習とは何か?~学習成立のための5要件~

 目次
1.協同学習の協同の3側面
2.協同学習の学習成立のための5要件
3.5つの授業スタイル
 (1) 授業スタイル1
 (2) 授業スタイル2
 (3) 授業スタイル3
 (4) 授業スタイル4
 (5) 授業スタイル5
 (6) 授業スタイルごとに何が違ったか?

4.授業スタイルの評価
5.思考の段階
6.協同学習で何の力を育てるのか

1.協同学習の協同の3側面

 私の講演スタイル自体が協同学習になっていることが多いと自覚しています。一方的な座学ではないため、参加された会場の皆様との「思考の交流」や「感情の交流」が、講座の中において盛んに行われていると思います。
特に、ピアサポートに関連したゲームなどを体験すると「この人はこういう人なんだ」、「雰囲気がいいな」「話しやすい人だな」「こんな時に自分の考え受け止めてくれるんだ」と強く実感することができますが、これは「感情の交流」が自然に行われている証左です。
 また、「役割の交流」もあり、私が会場の皆様に「フィンランドってどこにありますか?」と問い掛けると、社会が好きな方や得意な方は「ここらへんだよ」と、すぐに周りの人に教えてくれたり、黒板に書き出す際も「じゃあ、私が書きに行きます」などと、率先してグループを代表してくれます。
 私が一方的に話していれば、私が教え込む形となるため「思考の交流」ができません。また、参加された皆様どうしで話すことがなければ「感情の交流」もできません。そして「役割の交流」も全くありません。つまり、「思考の交流」や「感情の交流」「役割の交流」の3つの側面は、協同学習を成功させるために大変重要な構成要素となるのです。

2.協同学習の学習成立のための5要件

 協同学習の学習が成立するための要件ですが、1つ目は「相互協力関係」です。これは、「自分がやらないと仲間が成功できず、仲間がやらないと自分が成功できないような関係」を意味しています。すでにグループが形成されていて「他の人に任せておけばいいや」という論理が通用しない状況です。
 2つ目は「対面的―積極的相互作用」です。これは、「生徒同士が顔を突き合わせて行う相互活動」を意味しています。互いに目線も合わせないという状況では成立しません。
 3つ目は「個人の責任」です。「各メンバーの努力が査定されるなどしてグループの他の仲間の成果に「ただ乗り」できないこと」を意味しています。1つ目と同じで「他人任せ」の人はグループ全体の成果にはならず、皆それぞれに役割がしっかりあるということです。
 4つ目は「対人機能の適切な奨励・訓練・使用」ですが、これは「協力に必要なスキルを教え、使うように励ますこと」を意味しています。具体的には「話している人を注目し、良く聴く」「仲間の参加を促す」「名前を呼ぶ」「仲間を馬鹿にしない」「説明や明確化を依頼する」「自分の気持ちを述べる」「他のメンバーの発言を分かりやすく言い換える」など、7つの要素が含まれます。
 5つ目は「グループの改善手続き」です。これは「どうすれば自分たちの取り組みがもっと良くなるか、そのためにグループでの活動をふり返る」を意味しています。

3.5つの授業スタイル

 (1) 授業スタイル1
 世界で一番広い国はロシア。世界で一番高い山はエベレスト。世界で一番長い川はナイル川。「これを後からテストするから覚えといて」という授業スタイルは大変に多いです。 
 この授業スタイルでは、教師が先に答えを言ってしまっています。そして子供たちは、考えずにひたすらメモします。これが東アジア特有の授業スタイルです。
 私はかつて、中学校で数学の教師をしていましたが、一生懸命に黒板に問題書いている先生は結構いました。子供たちは必死にノートに書き写しています。それで数学の学力が上がるわけがないのです。そもそも子供たちは全く試行錯誤していません。先生が答えを一方的に言っちゃうので「感情の交流」も「役割の交流」も全くないのです。皆さんは、このような授業のやり方をどう思いますか?
(2) 授業スタイル2
 次は国産ビールの生産高ベスト5です。子供たちが自分で考える授業スタイルであれば空欄の括弧内に国名を書き込むのが一般的です。もちろんですが相談活動はありません。そして「ドイツ」「メキシコ」「ブラジル」と先生が答えを言って自分の答えと合わせます。ちなみに日本は世界第7位です。最初に自分で考えますが、相談活動が全くない授業です。「感情の交流」「役割の交流」「知識の交流」が全くありません。これも日本では多い授業スタイルです。「はい解けたか~次進むぞ~」と、先生が授業の音頭を取る感じですね。
(3) 授業スタイル3
 これは「観光客が多い国ベスト5」です。まず、グループで相談して穴埋めを完成させ、黒板に書き出します。5位の国から順に発表すると子供たちの気持ちが高まります。
 ちなみに第5位はイタリア、第4位は中国、第3位はスペイン、第2位はアメリカです。残った第1位はフランスです。一番正解が多かったグループに拍手を送ります。
 グループで相談することに始まり、全体でシェアする。そんな授業スタイルです。
(4) 授業スタイル4
 次は「自動車生産台数の多い国上位10か国」ですが、これはまず自分で良く考えます。そしてグループで相談した後、グループの代表が黒板に書き出します。
 ここでは第1位の国から発表していきます。下位の国にいくほど難しくなっていきます。第1位は中国、第2位はアメリカです。第3位は日本、第4位はドイツです。ここまでは比較的正解が出やすいです。続いて、第5位は韓国、第6位はインド、第7位はメキシコ、第8位はスペインです。この辺になると正解がだいぶ減ってきます。残っている第9位はブラジル、そして第10位はカナダです。これらが当たっていると本当に凄い知識です。
 これは、個人で考えてからグループで共有し、全体でシェアする授業スタイルです。
さぁ、会場の先生方なら、どのような授業スタイルをイメージしますか?
(5) 授業スタイル5
 次は「人口密度の高い国、上位10か国」です。これも自分で良く考え、グループで相談した後、各グループの代表が黒板に書き出します。第1位から、バングラデシュ、韓国、オランダ、日本、ベルギー、インド、スリランカ、フィリピン、イギリス、ベトナムの順に発表して、これを全体でシェアします。ここまでは先ほどの課題4と全く同じですが、どうすればグループの正解率が上がったかを考えてみたいと思います。例えば、国の面積との関係ですね。会場の先生方にお話しを伺ってみたいと思います。
教師F「小さい国を考えたら良かったのかなと思いました」
金山「小さい国を考えていった。例えば、ベルギーとかオランダとかですね。そういうところがポイントだったんですね。はい、ありがとうございます」
教師G「一人一人の発言を多くして。色々な国を挙げることがいいと思いました」
金山「様々な発言があった方が良いという意見ですね。はい、ありがとうございます」
教師H「ヨーロッパ圏が多く出ていましたので、とりあえず各地域で思いつくだけ発言できたほうが良いかなと思いました」
金山「ヨーロッパだけではなく、様々な地域を見ていくという意見ですね。ありがとうご
ざいます」
 先生方にお答え頂きましたが、これは最後に「振り返り」の検証作業が入ります。
 このような授業スタイルであれば記憶に残りやすく、今後の正解率の上昇も見込めます。
(6) 授業スタイルごとに何が違ったか?
 さて、ここで課題ごとに何が違っていたかを振り返ってみたいと思います。
 授業スタイル1では、「答えの提示が問題提示と同時に行われる場合」です。「世界で一番広い国はロシアだよ、覚えてね」という感じです。これは教師からの一方通行による授業スタイルです。
 授業スタイル2は「答えの提示の前に、それぞれで答えを想起する場合」です。世界のビールの生産量はどこの国が多いかを自分で良く考え、5つ書き出しました。そしてグループで相談をすることなく、私が一方的に解説しました。
 授業スタイル3は「答えの提示の前に、ペアやグループで相談して想起したり考えたりする場合」です。「観光客が多い国ベスト5」では自分で考えず、すぐにグループで相談をしました。
 授業スタイル4は「答えの提示の前に、まず自分で良く考え、グループで相談して想起する場合」です。自動車生産台数の多い国を10個書くために個人思考をしました。そしてグループで相談して、全体でシェアするというパターンです。
 最後の授業スタイル5では、世界の人口密度の高い国の上位10ヵ国を、まず個人で考えてから、グループで相談し全体でシェアしました。そして最後に「振り返り」を行い、どうすればグループの正解率が上がるかを考えてもらいました。つまり、検証を加えたパターンです。
 皆さんなら授業スタイル1から5の中でどれが好きですか。アンケート調査では、課題4と5のスタイルが好きだという子供たちが多くいました。私たち教師自身が、授業のスタイルを課題4や5のスタイルに、意識的に変えていかなければならないということです。
 
 実は大学の教員も、どの授業が楽しいか分かりやすいかなど毎回授業評価をされます。私の授業評価は高いですが、必ず「金山先生の授業はグループワークが多くて辛いです」と書かれます。友達と関わりたくない学生も結構いますので、その辺は配慮していますが、そのような学生が社会に出たら、誰とも会話をせずに過ごすのは難しいと思います。
グループワークが苦手な子供は小中高、特別支援でも必ずいますので配慮が必要ですが、だからこそ授業の中で頑張って人と関わるトレーニングをする動機づけが必要です。

4.授業スタイルの評価

 課題1から5について「学校が嫌いになりそうなのは」「安心して授業を受けられるのは」「勉強が好きになりそうなのは」「人間関係力がつきそうなのは」「学力がつきそうなのは」という5つの観点から評価した場合、どのような結果になるでしょうか?先述しましたが協同学習を行う上で、授業の中でも人間関係を構築するのがポイントになります。
 学校が嫌いになるのは「学校適応感」が下がるという現象です。課題1の授業スタイルは先生が一方的に進めるパターンですが、学校生活の大半が授業であり、その授業が理解できない状況に追い込まれると、子供たちは孤独感に苛まれて、学校が嫌になります。
 安心して授業を受けられるのは「非侵害感」で、これは「いじめ」がないことを意味しています。授業の中で嫌な言葉をかけられると、嫌悪感が大きくなり、いじめられているように感じます。その辺を配慮した「いじめのない授業づくり」も必要です。
 勉強が好きになりそうなのは「学習適応感」で、子供たちが面白いと思える授業です。これは高めていく必要があります。人間関係力がつきそうなのは「ソーシャルスキル」で、ピアサポート的に人との関わり方を学ぶことができます。
 そして、学力がつきそうなのは「学習パフォーマンス」で、これが比較的高まりやすいのは、課題4または課題5の授業スタイルとされています。

5.思考の段階

 ブルームという心理学者がいました。左側のピラミッドは、彼の説を図式化したものですが「知識を理解させることが教育」「応用問題を解かせることが教育」という主張を展開していました。しかし現在は、右側のピラミッドに示しているアンダーソンの説が有効になっています。彼の説によれば、新しいものを生み出す「創造力」。この「創造」が思考における最上級に位置します。
そして、私たちが授業を行う上では、アンダーソンのピラミッドに示す6個が必要だと言われていますが、皆さんはどの辺まで到達していますか?
日本の一般的な授業スタイルでは、「記憶」と「理解」、そして応用問題などの「応用」。この3つで終わっている場合が多いと言われています。
ところが、子供たちどうしで相談活動を行うと、その中から創造的なものが生まれると言われています。一人で考えても何も生まれませんが、協同学習を通じてグループ思考が高まり、様々な知恵が集まって、そこから「創造」に至ると考えられているのです。

6.協同学習で何の力を育てるのか

 協同学習においてどんな力を育てるかというお話しをしたいと思います。まず第一に、「コミュニケーション力」です。次に、自分の意見が受け入れられていること、あるいは、優しく接してくれるといった「信頼関係」です。この2つは、ピラミッド型の図で示した基礎部分を形成しています。
 そして中間層の部分には、自分で自分の考えを他の人に伝える「表現力」があります。他に「収束的思考」を伴う「判断力」と「拡散的思考」を伴う「思考力」があります。
「収束的思考」とは、様々な考えをまとめながら、結論を導出する思考を意味しています。一方の「拡散的思考」とは、一つの考えだけではなく、様々な視点から広く考える思考を意味しています。
 最上層の部分には「メタ認知力」があります。例えば、世界地図を俯瞰して「世界ってこんな感じだよなぁ。ヨーロッパだけじゃないよなぁ。小さな国にも目を向けてみよう」などと自分自身を客観的に認知する能力を指しています。また、他の人と力を合わせて、問題を解決する力である「共同的問題解決力」があります。

 これまでの授業と言えば、先生と生徒がいて教科書やテキストなどの教材がありました。
 実は、先生が最も一生懸命に勉強しているのです。高校の先生は特に勉強家が多いです。
 しかし、先生が一生懸命な授業スタイルではなく、生徒たちが内容について勉強して、先生はその仕組みを作るという流れもあります。これが「構造づくり」です。
 最初に個人思考をした後、友達同士で相談させてグループ思考をする。グループを代表して、前に出て来て黒板に書き出す。全体で共有して全体思考をする。そして、再び個人思考に戻るという仕組みや構造、これが協同学習であることは先述した通りです。
 全ての授業は無理だと思いますが、授業の中でこのような「構造づくり」ができると、理想的な協同授業が実現できると思っています。

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