規則違反生徒の生き方をリードする

 目次
1.ディスプレーと規則違反
2.「大切だから注意するよ」
3.行動の変容を促すアプローチ
 (1) 現実と対峙
 (2) 生き方のモデル像の提示
4.規範意識の低下と大人の責任

1.ディスプレーと規則違反

 いつの時代にも、規則違反をする生徒は存在します。中学生・高校生は思春期の真っ最中にいます。その思春期心理を理解しないで規則違反は語れないのではないでしょうか。思春期は親や教師を含めた大人・社会・価値観などにぶつかりながら、生き方を学んでいくブラックボックス的な時期です。
 暗闇の中に置かれた人間は、まず最初に何をするか。多くの人間は、手を伸ばし壁を探すでしょう。つまり、壁にぶつかってはじめて自分の位置がわかり、自分を確認していくのが思春期です。
 学校不適応の生態学視点から分析している研究もあります。チンパンジーのディスプレーと非行の関係性を見てみます。ディスプレーとはチンパンジーが仲間に自分の力を見せつけるための行動で、走り回ったり、石を投げたり、大声を出したりすることです。リーダーとして確固たる地位を築くための威嚇行動であり、ケンカをせずに力関係を決定する手段でもあります。
 非行生徒は、髪型、服装で目立とうとし、時には学校の玄関などわざと見えるところでタバコを吸い、自分達の存在を誇示しようとします。これもまたディスプレーと見ることができます。

2.「大切だから注意するよ」

 A君は問題行動をいつも起こす生徒で、茶髪、ピアスなど、いつも規則違反ばかりしています。相談係りをしている私との関係は比較的良好なのですが、他の教師が注意すると「うるさいんだよ!」と横柄な態度をとることがあります。担任からA君とカウンセリングをしてほしいとの依頼がありました。
「A君、最近の調子はどうだい?」
「別に・・・・」
「先生、A君と相談したいことがあるんだけどわかるかな」
「わかんないよ」と素っ気なくいいます。
「そうだよね。担任の先生もA君のことをとても心配しているよ」
「そんなことないよ。いつだって顔を見ては注意ばかりしているんだから」
「注意するということは本当に大切に思っているからなんだよ」
 規則違反という問題行動の変容を促す前に、生徒の感情の部分に焦点を当てる必要があります。感情が混乱している状態では、どんなにいい促しをしても、生徒は受け止めることができません。たとえ、行動の変容がみられなくても「A君のことが大切だから注意しているだよ」というメッセージを伝えます。
 特に、いつも担任の注意をうけているA君にとって、担任との関係は良好ではありません。そんなときは「担任の先生、A君のことを休み時間に他の先生と相談していたよ」「どうして」「最近、何かA君が元気ないからどうしたのかなって心配していたよ。それからA君がこの前の部活の試合で活躍したと部活の顧問の先生から聞いて、担任の先生、ものすごく喜んでいたよ」という別の情報を入れます。
 生徒は生徒同士の情報をもとに、教師をイメージ化してしまう傾向があります。A君の知らないところでA君のことを心配していたという別の情報を伝えること(情報のクロス化)により、人間観関係の抵抗感を緩和することも相談係りの仕事です。
 また、A君を注意するときには、多くの生徒が見ている前とか、職員室での注意はあまりしません。教育相談室などを利用します。他の生徒の前では、先に述べたディスプレーが働き、教師の注意に対してワザと反抗的になるざるを得なくなってしまうからです。他の生徒には、なんらかの形でA君が別室で注意を受けているという雰囲気は伝わるようにします。「やっぱりA君も注意を受けているんだ」ということが重要です。

3.行動の変容を促すアプローチ

(1) 現実と対峙
 傾聴することはもちろん大切ですが、価値を語り、意味づけをすることも必要です。何回かのカウンセリングが進んでくると「父さんはいつも暴力をふるってばかりで、母さんは勝手に家出した。親はみんな勝手だ」とボソボソうつむきながらA君は語りだしました。
 もちろん、気持ちを受け止めた上で「お父さんが暴力をふるったり、お母さんが家出をしたのはA君に責任はない。それは、お父さん、お母さんの責任だ。でも、A君が学校をさぼったり。バイクを窃盗したりするのはA君の責任だよ」と親とA君の責任を区別します。
 A君ほど深刻な悩みを持っていなくても、家庭や友達との葛藤を学校生活に持ち込んでくる生徒はたくさんいます。そんなとき、責任転嫁により自己を正当化しようとする生徒が多いのも事実です。責任の所在を明確にし、自己の責任について促すことが大切でしょう。
 その上で、「そんなことしたって、A君のためにはならないよ」「親のことでおもしろくないことがあったのはわかったよ。でもA君の人生だよ。A君はどう生きたいの」と促していくことが必要です。援助はA君が受容できる範囲であり、かつ、A君の心を揺さぶることができるものでなければ効果はありません。
(2) 生き方のモデル像の提示
私のクラスでは、卒業生が来て道徳の時間に自分自身を語ることがあります。その中で、非行や不登校から立ち直った生徒やすし屋に就職し、社会で懸命に生きている若者達をビデオに収録してあります。身近な卒業生の話は子どもの心に響き、学校不適応改善の気づきとなることがあります。
A君には、非行から立ち直った母校の先輩が、以前、道徳で話をしてくれたビデオを見せました。いろいろなアプローチを展開しますが、説得と納得は違うものです。基本的なねらいはどう生きたいのかという生き方のリードを促すことです。意味を見出すと行動は変容します。

4.規範意識の低下と大人の責任

 中央教育審議会の答申にもありましたが、規範意識の低下は目に余るものがあります。日本・アメリカ・中国の高校生の規範意識の調査結果で「先生に反抗すること」や「親に反抗すること」は本人の自由でよいというのが、日本はそれぞれ79%、85%。アメリカや中国のほぼ5倍もありました。日本の規範意識はいったいどこへ行ってしまったのでしょうか。
また、いろいろな調査では、子どもばかりではなく、大人の規範意識も低下しています。子どもの規範意識の低下は大人の問題でもあり、我々大人が育ててきた結果なのです。もう一度、自由と責任とは何かを問い直す必要があるでしょう。教師の毅然たる態度が、生徒の信頼を得ると信じています。

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