強い攻撃性を持つA子へのアプローチ

 目次
1.個は集団で育まれる
2.問題に対持させる個と集団へのアプローチ
3.A子へのサポートと保書者への説明責任
4.現実原則を学ばせる集団づくり

1.個は集団で育まれる

 最近、キレる、暴力を振るう、いじめを繰り返すなどの攻撃性の高い生徒の話をよく耳にします。こうした生徒たちが抱える問題は、受容・共感だけでは、なかなか解決できません。生徒たちの心に寄り添い、同時に、現実原則を学ばせるプログラムが必要になってきます。
 思春期のまっただ中にいる中学生は、失敗を繰り返しながら成長していきます。一喝して問題を収めても根本的な解決には至りません。教師には、失敗を成長へのチャンスととらえるぐらいの余裕が必要になってきます。
 効果的に現実原則を学ばせる方法として、現実療法がよく知られていますが、今回は「個と集団の力動性を生かしたアプローチ」についてまとめました。これは「個は集団で育まれる」という考え方が基本になっています。葛藤やバランス、システムを生かしながら個と集団を成長させ、同時に、現実原則も学ばせるアプローチです。

2.問題に対持させる個と集団へのアプローチ

 A子は自己中心的で、周りの生徒に常に攻撃的でした。小学校ではある生徒をいじめ抜き、精神的に追いつめて入院させ、学級崩壊の原因をつくっていました。中学校でもその態度は変わらず、他者を攻撃する言動をくり返していました。いじめをすることで自己の存在をアピールし、他者が逆らえない状況をつくりだしていたのです。学級の生徒の多くは、自分がターゲットになるのを恐れ、A子の言いなりになっていました。学級全体の雰囲気が悪化し、ギスギスした状態になってしまいました。
 このような問題には、A子本人の指導と並行して、学級全体への指導も行います。学級集団の中に、いじめや攻撃性のある生徒への、毅然とした態度を養っていくことが大切です。そのために、集団の凝集性を高め、成長を促すアプローチが必要でした。
(1) 事実確認と問題の把握
 担任である私は、A子のいじめの被害を受けた生徒の教育相談を行いました。「先生が直接A子に対応することもできるよ」と伝えると、多くの生徒がそれを拒否します。実は小学校のとき、生徒たちがA子のいじめを担任に申し出、担任はすぐ学級会で話し合いの場を設けたのですが、その後いじめがさらに悪化したとのことでした。個々の生徒との教育相談終了後、A子から被害を受けている生徒を集めて解決方法を相談しました。具体的な方法は出ませんでしたが、脅しの手紙や実際の言葉の暴力などをまとめることになりました。取り組みのねらいは、集団の凝集性を高めることに置きました。
(2) リーダーの育成と問題解決へのアクション
 被害の事実をまとめる取り組みから、この問題の解決に向けた女子グループのリーダー育成を目指しました。A子の言いなりだった集団が、目的を持って少しずつまとまりました。その中で、各自の役割を明確にし、問題に立ち向かう集団の形成と、仲間意織を育てました。A子はそれを察し、他学級の生徒や上級生に「C子、先輩の悪口言ってたよ」「D子はあんたのことチクッた」などと言って、問題がさらに複雑になっていきました。そこで、被害にあった生徒を集め、いじめの事実をA子に確認したいと提案しましたが、仕返しを恐れたのか、反対意見ばかりでした。しかし、今アクションを起こさなければ今後も同じ状況が続くこと、A子の成長や、みんなが楽しく過ごせる学級をつくるためにも必要だということを伝え、問題解決への動機づけをしました。
(3) 葛藤場面の設定と集団の成長
 A子に、これまでのいじめの被害を伝えましたが、「知らない」「これはE子がしたことだ」と一切を認めません。逆に、この事実を提供した生徒と会って話をしたいといいます。この提案に多くの女子が後込みをしました。A子がいると、思ったことが口に出せないと言うのです。私が、複数の女子が出席すること、人間には勇気が必要なこと、担任として今までも同じような問題を解決してきたことなどを伝えると、話合いの場を設けることに納得してくれました。A子と女子グループの最初の話し合いは、まったく相容れないものでした。話し合いは数回行い、各自を精神的に鍛える意味も含め、毎回少しずつメンバーを変えました。女子グループは、徐々に自分たちの意見や、A子の矛盾点を指摘することもできました。今回の取り組みを通して、学級全体がいじめを許さない集団に成長していったのです。

 この事例の対応には、生徒へのペース合わせが必要です。教師が一方的に解決を模索するのではなく、生徒とともに解決のプロセスを考え、納得のいく方法をとることが大切です。教師が中心になって解決した場合、表面的には解決したように見えても、生徒が納得しなかったり、不満が残ってしまったりする場合があるからです。

3.A子へのサポートと保書者への説明責任

 女子グループへの教育相放と同時に、A子へのサポートも十分に展開しました。何度目かの教育相談の中で、初めてA子の目から涙がこぼれました。そしてA子は、今までしてきたいじめや攻撃的言動を認めはじめました。私は、A子が変われば、みんなと仲良くできることを強調しました。A子と学級の女子グループの問題は、このような過程を経て、解決に至りました。A子は、進級後の新しい学級ではトラブルを起こしませんでした。しかし、仲間とのつながりは、プリクラやタレントのブロマイドの収集など、情報の共有化程度にすぎません。これでは親密度の向上にも限界があります。そこで、学校祭で責任のある仕事を任せたり、部活動加入を勧めるなど、体験の共有化を促しました。
 A子の家庭は、過保護の典型でした。いじめの問題を親に伝えても、逆にわが子が被害者ととらえる傍向がありました。親子間の距離が縮むほど、「縦関係」のしつけは後退し、「横関係」に近い感情的交流が拡大します。両親ともに、A子とは友達のような関係で、A子も親に密着した状態でした。両親がA子に密書しているともとらえることができます。A子の親に対しては、問題の事実を一つ一つ丁寧に伝えました。親は、最初こそ防衛的でしたが、今がA子の成長に大切な時期ということを、よく理解してもらいました。
 指導方針とその過程、改善の方向性に関しては、十分に説明責任を果たさなくてはなりません。もちろん、指導後に、指導の評価を受けることも大切です。その評価は、A子の変容した姿にかかっています。生徒指導とは、結果が求められるものなのです。

4.現実原則を学ばせる集団づくり

 個と集団は、独立して存在するのではなく相互の関係性を持って成立しています。集団には、制度的に確立されたフォーマル集団(例:学級・班)と、表に現れないインフォーマル集団(:仲間集団)があります。学級には、インフォーマル集団が複数存在します。いじめなどの問題行動も、インフォーマル集団によって起こります。いじめや学級の問題に対しては、この二つの集団をともに成長させるアプローチが必要です。

① 生徒各自の役割の明確化
② 仲間意披の動機づけ(許す・守る・支える)
③ 集団としての具体的目標設定
④ 体験の共有(表現させる・語らせる)

 問題行動には、一人ひとりの生徒への対応と同時に、学級づくり・集団づくりの視点からのアプローチを展開することが大切だと考えています。心の成長は、人格的な成長を意味します。今という現実から逃げない自分になること、相手を許す体験をすることは、自己受容が深まってこそできることです。A子と様々な葛藤を繰り広げた生徒たちも、人を許す心を学びました。A子にとっても、今回のような挫折や失敗は、人生の発達課領ととらえることができます。

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