• HOME
  • BLOG
  • 生徒指導
  • エンカウンターを生かしたリレーションづくり~金山流・部活動指導~

エンカウンターを生かしたリレーションづくり~金山流・部活動指導~

 目次
1.リレーションづくりで部活は変わる
2.「ライフライン」…遠征を前に自分を見つめなおす
3.「自分への気づき」…自分の「よさ」を教えてもらう
4.「ネットワーク分析」…自分の応援者を見つける
5.最後に

執筆日…1998年(平成10年)
 我が国の優れた部活動指導者の一人で、もと関西学院大学長の武田建氏は、「コーチになった当初は選手のミスをどなりちらした」と述べている。だがその後、指導に心理学の知識と技法をとりいれ、同大学アメリカンフットボール部を関西大学リーグ145連勝、33年間連続全国学生王座決定戦出場に導いた。つまり、カウンセリングの手法を生かすことで、指導をよりよいものにすることに成功したのである。

1.リレーションづくりで部活は変わる

 部活動の担当教師は「部員は一様に強い活動意欲をもち、同じ目標に向って努力すべきである」と考え方のズレがあることが多い。これは目標達成の足かせにもなりかねない。ズレの修正に有効な方法は構成的グループエンカウンターを使った質の高い雰囲気づくりである。私はそれを「チームワーク向上装置」「やる気向上装置」と呼んでいる。エンカウンターは「バーンアウト・ドロップアウト防止装置」まで装備した効果的な援助法である。私がエンカウンターを実施するようになって数年がたつ、部活内の人間関係のトラブルや途中退部者がここ数年でまったくなかった。また、先輩、後輩、卒業生の父母までもがひとつにまとまっているように感じる。その理由としては、①エクササイズに対して一人ひとりの生徒に自己理解が進むこと、②シェアリングにおけるメンバーからの率直なフィードバックを得ることで、生徒同士に信頼関係が構築されることが考えられる。本音と本音の交流、コミュニケーションの拡大、他者理解、自己理解、目標の明確化、積極的な思考の展開を目的としたエクササイズの体験がチームワークの向上につながったのだと考えている。表は、私が毎年実施しているエクササイズである。ここでいくつか紹介する。

4月:新入部員入部式(他己紹介・質問コーナー)
 自己開示と他者理解により部員同士の親密度を高める。まず二人一組で相手の話を傾聴し、他の部員に「この人はこういう人です」とその人の紹介をする。親しみやすい人間関係の基礎作りが目的である。
5月:連休の遠征前(ライフライン)
 今の自分にいたるまでの道のりと今後の歩みをイメージして、自分史を作る。シェアリングの際には、相手の考え方を尊重するようにする。ゆっくりと自分を見つめる時間を設ける。
7月:中体連札幌大会前(自己への気づき)
 「あなたの良い点は--です」という無記名のメッセージを全員でかき、該当性とに渡す。これにより、自分の長所短所や自分の行動パターンに気づくことができる。
8月:中体連全道大会前(ネットワーク分析)
 全道大会を前に協力してくれる家族、部員への感謝の心をもち、潜在的な応援者を発見する。また他者の関係を認識し今後のネットワークのキーパーソンを見つける。
10月:新人戦前(「X君」へアドバイス)
 部活動に悩みを持つ「X君(架空)」に救いの手紙を書く。自分ならどうするか、彼にこの考えをどう伝えるか。自分の考えや共感したい思いを確認し、シェアリングする。
1月:合宿前(クラスタリング)
 三年生の引退で、二年生が中心となるこの時期、学級を前に学校生活や部活での目標を具体化・明確化する。「このように変化したい」という自己イメージを宣言し、シェアリングでお互いを尊重しあう3月:卒業式前(クロージング)
 カードを配布し、「私は--さんが好きです。なぜなら--だからです」とその人が一番いいところを見つけ出し、メッセージを書いて渡す。感謝の心と自尊感情をお互いに高めあう。

2.「ライフライン」…遠征を前に自分を見つめなおす

<方法>
①まず今年1年間をイメージし
そこから見通しを持って人生のプロットを作る。
②達成度・満足度を想像しながらフリーハンドで曲線を書き込む(図)。
③3人1組になって自分のライフラインを紹介したり、感想を話し合う。各自感想を 書いて全体に発表する。

生徒の感想…なんだか自分の部活動の目標が具体的になってきたのがよかった。先輩たちもあたたかく話を聞いてくれたのでよかった。30歳や40歳のことを初めて想像したが楽しかった。1時間があっという間に終わった。

3.「自分への気づき」…自分の「よさ」を教えてもらう

<方法>
①全員にカードを私、自分以外の部員の長所と改善点を無記名で書く。
②「○君の良いところは、3年生になって補欠だったけど、試合で一生懸命応援していたところです。改善点は、部活動の欠席連絡が遅れるところです」などのメッセージが書かれたカードを該当生徒に渡す。
③シェアリングで感想を話し合い、自分達の知らなかった長所や短所を理解する。

生徒の感想…自分自身について考えるきっかけになり、とても参考になった。

4.「ネットワーク分析」…自分の応援者を見つける

<方法>
①自分にとって意味のある人、重要な人を12名上げ、どんな人か簡単に記す。(人柄)。自分の支えになっているか(サポート)、接触頻度はどれくらいかについて○◎△を記入する(表)。
②ネットワーク地図の上に配置する。
③自分の人間関係を振り返る。

生徒の感想…家族の存在はやっぱり大きかった。部活のネットワークは思ったより少なかったので、もっと積極的に友達をつくりたい。それと部活のS君は実は大切な人だと気がついた。

5 最後に

 部活動は生徒の活動の中で大きな比重を占め、活動意欲、自己実現、仲間作りの欲求を満たす要素を持っている。部活動は学校を支える大きな柱の一つである。私は剣道部を担当して15年になる。最初は教師主導型でひっぱっていたが、生徒の充実感はあまりなかったようだ。カウンセリングという言葉こそ使わないが、その人格そのものがカウンセリング的対応をかもし出していたように思う。たかだか札幌市の中体連ではあるが、団体3位以内に過去12回入ることができたのも、エンカウンターによるリレーション作りを学んだおかげだと思っている。

関連記事