データでみるスマホ・SNSの利用のルールづくり
目次
1.コロナウィルスとPISA調査(ICT)
➀ 海外の学校のコロナ事情
➁ 日本のICT教育は世界で何番目?
2.ネット依存 93万人
3.ネットの中を生きる子供たち
➀ 1分以内の返信時間26.6%
➁ ネット依存傾向と生活への影響
➂ ネットで知り合った人と実際に会う
4.学校でのルールづくり
➀ 依存傾向別のルールの順守
➁ 子供たちによるルール作成
➂ 子供たちの当事者性を引き出す
➃ 子供が作った携帯のルール
5.アイザック・ニュートンとペスト
1.コロナウィルスとPISA調査(ICT)
➀ 海外の学校のコロナ事情
アメリカの友人にコロナウィルスによる学校への影響を聞くと、「ほとんど影響ないよ。小学生の時から、Web上でも授業しているからね。」とのことでした。中国の友人にも同様の質問をすると、先ほどのアメリカ人の友人と同じ答えでした。日本の先生方に聞くと、「授業用のプリントを作って、各家庭を回って届けている」とのこと。郵便配達と同じ状況でした。日本のICT教育は、あまりにも遅れ過ぎている感があります。
➁ 日本のICT教育は世界で何番目?
PISAではOECD加盟国の国際的な学習到達度ばかりでなく、ICT利用の調査もしています。「普段の1週間のうち、教室の授業でデジタル機器を使う時間の国際比較(2018)」(国語)は、「1時間以上使う」では、1位デンマーク(68.7%)、31位日本(3.0%)。同様に数学でも、デンマーク(55.4%)、31位日本(2.6%)でした。ちなみに、31位はOECDで最下位です。
他にも、「コンピューターを使って宿題をする」など33個の質問がありますが、20個の質問で最下位でした。そんな中でも1位の項目が2つあります。「1人用ゲームで遊ぶ」「ネットでチャットをする」(LINEなど)です。日本は、ネットで勉強は一番しないが、ゲームとチャットは一番することが明らかになっています。
2.ネット依存 93万人
2018年、厚生労働省はネット依存の調査結果について、中学生12.4%、高校生16.0%がネット依存に該当し、推計では93万人で、2012年の調査の51万人からほぼ倍増したと発表しました。この数字は、中高生の7人に1人がネット依存であることを示しています。
兵庫県では、「スマホ・SNSの学校・家庭での利用のルール」づくりを進めており、その一環として、厚生労働省と同じ調査項目のアンケートを実施しています。調査人数は、小~高校生9,814人、その保護者7,390人と、大規模調査です。本稿はその調査結果の報告です。
3.ネットの中を生きる子供たち
➀ 1分以内の返信時間26.6%
質問1「LINEなどで『既読』がついたら、どれくらいで返信しようと思うか?」
ネット依存傾向有は、1分以内に返信している割合が26.6%、5分以内の返信している割合が42.6%でした。一方、ネット依存傾向なしでも、1分以内に返信が18.3%、5分以内の返信が35.4%あり、子供達にとって携帯電話等が日常生活になくてはならないものになってきていることが伺えます。本稿のネット依存傾向有は厚生労働省と同じKimberly S.Young (1998)の定義を用いたアンケートを使っています。
依存傾向別 返信時間(%)
1分以内に返信 | 5分以内に返信 | |
依存傾向 有り | 26.6% | 42.6% |
依存傾向 無し | 18.3% | 35.4% |
➁ ネット依存傾向と生活への影響
携帯電話を利用するようになってからの日常生活での変化を聞きました。
質問2「イライラすることがあるか?」
「よくある」と答えた子供は、「依存傾向無」が11.6%に対して、「依存傾向有」は25.4%でした。
質問3「勉強に自信があるか?」
「自信がない」と答えた子供は、「依存傾向なし」の22.8%に対して、「依存傾向あり」は40.7%でした。「依存傾向有」は、ネットを長時間利用する傾向があるため、勉強時間を確保できていないことが考えられます。
➂ ネットで知り合った人と実際に会う
質問4 「ネットで知り合った人と実際に会ったことがあるか?」
表の上段は、子供が実施にネットで知り合った人に実施に会った割合(%)。下段は保護者が、子供がネットで知り合った人と実際に会ったことを把握している割合(%)である。
ネットで知り合った人と実際に会う (%)
小学生 | 中学生 | 高校生 | |
子供の回答 | 1.9% | 5.1% | 13.8% |
保護者の回答 | 0.0% | 0.8% | 4.8% |
どの校種も保護者が現状を把握していないことがわかりました。特に高校生の13.8%がネットで知り合った人と会っているにもかかわらず、保護者は4.8%しか把握していません。ネットで知り合った人と実際に会うとなりすましや性被害、誘拐などの被害に遭う危険性もあります。
2017年、自殺願望のあった若い女性を中心に、神奈川県座間市で9人の切断遺体の連続殺人事件が発生しました。犯人はツイッターで「首吊り士」を名乗り、「首吊りの知識を広めたい、本当につらい方の力になりたいお気軽にDMください。」と書き込み、事件が起こりました。まずは、保護者が現状を知る努力をすることが必要です。
4.学校でのルールづくり
➀ 依存傾向別のルールの順守
質問5「決めたルールを破ったことが何度もある?」
依存傾向有、依存傾向無、ともに「学校」「友達」で決めたルールを破ったことがある割合は、「保護者」「自分」で決めたルールの半分以下でした。
決めたルールを破ったことが何度もある (%)
保護者 | 学校 | 友達 | 自分 | |
依存傾向が有り | 48.4% | 20.4% | 14.9% | 42.0% |
依存傾向が無し | 19.6% | 10.2% | 3.8% | 12.4% |
➁ 子供たちによるルール作成
質問6「児童会・生徒会でケータイ・スマホの使い方を話し合った?」
児童会・生徒会での話し合いがある場合は、小学生74.1%、中学生88.2%、高校生90.7%が学校にルールがあると回答した。これらの学校では、携帯電話の利用時間、フィルタリングなどのルールが主体的に議論されている場合が多く、児童会・生徒会での話し合いを通じて、学校にルールがあることを認識していることが示されました。
一方、児童会・生徒会での話し合いがない場合でも、小学生・中学生・高校生いずれにおいても半数程度が、学校にルールがあると回答しました。これらの学校のルールは、小学校では学校に携帯電話を持って行かない、高校では授業中、携帯電話を使わないなど、形式的なルールである場合が多く見られました。
➂ 子供たちの当事者性を引き出す
校長先生が全校集会で、「ケータイ・スマホの使い方に注意しなさい」と言って、SNSの問題が解決した事例を私は知りません。子供たちが当事者性をもって、話し合い、ぶつかりあって、はじめて問題解決につながります。
それには、児童会・生徒会が大きな意味を持っています。学校のルールは、生徒会等による話し合いにより主体的にルールが設定されている場合と、生徒会等による話し合いのない形式的なルールが設定されている場合があり、設定過程によってルールの質が異なります。
以下は、その2群とネット依存傾向のある者の割合を比較しました。小学生において、児童会での話し合いによりルールが設定された場合のネット依存傾向のある者の割合は31.6%ですが、児童会での話し合いがなくルールが設定された場合のネット依存傾向にある者の割合は68.4%と2倍以上となっています。
同様に、中学生・高校生でも、生徒会による話し合いにより学校のルールが設定されている場合の方が、話し合いのない場合よりネット依存を減少させることがわかりました。
ルールがある学校の中で、生徒会等による話し合いの有無による、
ネット依存傾向のある者の割合(%)
小学校 | 中学校 | 高校 | |
話し合い有り | 31.6% | 46.5% | 26.8% |
話し合い無し | 68.4% | 53.5% | 73.2% |
調査では、「学校」でのルールづくりが、「友達」とのルールづくりの派生していくことがわかっています。
➃ 子供が作った携帯のルール
いろいろな学校とケータイ・スマホのルールづくりをしてきました。下記はある中学校の生徒会が作成したルールです。
・21以降、携帯はしない
・21時以降、携帯は居間に置く
・食事中、入浴中は、携帯はしない
・フィルタリングは、必ずする
・学校にはもっていかない
このルールは途中で改定になり、21時という時間設定が22時になりました。塾から戻ると22時なり、寝る前にLINEを確認したいとの意見があったためです。保護者からは、かなりの反対もありましたが、子供・保護者の代表同士の話し合いで、まとまりました。
子供たちに「21時」を押し付けた時点で、子供たちは教師に「やらされている感」を持ち、自分たちでルール作っているという感覚が持てないのです。子供たちの意見を尊重することで、結果としてルールが浸透していきました。
5.アイザック・ニュートンとペスト
アイザック・ニュートンが通っていた大学はペストが大流行し閉鎖となり、故郷の戻ることになりました。その時期に、万有引力の法則や微分積分を発見したと言われています。今、私たちも、学校が閉鎖になり、自粛を余儀なくさせています。そんな時こそ、普段できない思考を深くし、創造的な在宅勤務をすることができればいいのですが・・・。
今後、授業のオンライン化が進むと思います。「ネット・SNSは危険だ」とばかり教えるのがICT教育ではありません。より大きな視点でのICT教育・情報モラル教育の展開が必要です。