生徒指導を戦略的に展開する

 目次
1.教育は結果勝負という意識改革
2.生徒指導のビジョンを組み立てる
3.教育相談だよりのねらい
 (1) 「同じ山に登る」ために
 (2) 開かれた学校をめざして
 (3) 求められる本音のたよりを

4.教育相談室だよりの構成
 (1) 生徒の現在の様子を伝える
 (2) 思春期心理の話題を提供する
 (3) 生き方(価値)のリードをする
 (4) 意味を教える
 (5) 話題をタイムリーにする
 (6) 生徒や保護者の返信欄への回答
5.生徒指導の漢方薬

1.教育は結果勝負という意識改革

 どんなに人柄のいい医者でも、手術が下手ならヤブ医者と呼ばれます。教育でも同じことが言えます。
 つまり、どちらでも「結果」が求められているのです。
 生徒は育ててきたようにしか、育っていません。教育は結果勝負という意識改革が必要ではないでしょうか。「地域や上級生が悪かったから、今年もその影響で生徒がよくない」などの言い訳をしないことです。そのためにあえて、「生徒指導を戦略的に展開する」という言葉を使います。もちろん戦略の前に暖かい人間性と教育への熱い情熱が求められます。

 学校全体の生徒指導を組み立てていくには、しっかりとした戦略を描かなければなりません。短期、中期、長期の達成目標を明確にします。つまり、ゴールを決めると逆算してやるべきことが決定します。生徒や地域の特性を分析し、教師の持ち味を生かした生徒指導を計画的に行うことが必要となります。

2.生徒指導のビジョンを組み立てる

 生徒指導のシステムの模索には、明確なビジョンが必要です。お互いビジョンをしっかり理解することによって、その目的遂行のためにはどのような組織や人がよいのかが決定されていくのです。どんなに学校が荒れても、策のある学校は再生すると信じています。万策尽きたという学校は、教師間にも不協和音が発生しやすく、無気力になります。人間は、夢や希望があれば耐えていくことができるものです。
 生徒指導を推進する立場の教師は、座標軸をしっかり持ち、学校の混乱状態に自ら巻き込まれてはならないと考えています。どんなに生徒指導が困難でも、戦略的に生徒指導を組み立てて、再構築するビジョンを持つべきです。その戦略的な枠組みの一つで、ボクシングのボディーブローのようにジワジワと効いてくるのが、生徒や保護者に対する学校・学年・学級のたよりや、教育相談室便り、部活動だより、教科だよりです。また、教師への生徒指導資料配布も重要なってきます。開発的生徒指導を展開していくための要素になると考えます。今回は、生徒指導に関する生徒・保護者向けのたよりについてまとめてみました。

3.教育相談だよりのねらい

(1)「同じ山に登る」ために
 自分の想いというものは、黙っていては相手に伝わりません。生徒や保護者、仲間の教師に想いを伝えたかったら、それなりの努力が必要なのです。各種たより(通信・資料)は、生徒・保護者・教師が「同じ山に登る=役割やペースは違っても、最終的に同じ目標にたどり着く」という共通理解を促します。
 そのためには、たよりを一方通行で終わらせないで、読み手がどう受け止めているかを返信できるようにすることが必要となります。人間関係には必ず、他者との関係が存在します。保護者の小さな反応も取り上げ、指導に生かしていることを伝えます。


(2) 開かれた学校をめざして
 開かれた学校とよく言われますが、たよりを地域にも関係小学校にも配布することによって、風通しがよくなることも事実です。問題事項についてもオープンにし、変化・対応・生徒の成長もフォローアップしていきます。問題に対する学校の指導過程も伝えていきます。学級通信は静止画像です。だからこそ、ストーリー性を持って展開していくことが必要となります。もちろん、生徒のプライバシーについては慎重に取り扱います。
(3) 求められる本音のたよりを
 「学校が荒れているといううわさを聞くけど、どんなことがあったんだろう」「学級ではうちの子はどんなおとをしているんだろう」「反抗期になったみたいだけど、どう接したらいいかわからない」そんな想いはどの保護者にもあります。親は本音のたよりが欲しいのです。表面的なお知らせプリントを待っているわけではありません。
 たよりには、教師の迷いを素直に伝えることも必要です。保護者の協力をぜひともお願いしたいと率直に申し出ることも必要です。学年や学級PTAに出席できない保護者に対して、協力的でないと決めつけるのは一方的かもしれません。そんな保護者のためにもたよりは必要となるでしょう。

4.教育相談室だよりの構成

 教育相談室だよりは、名前は堅いのですが、困ったこと、悩みごとがあったら「教育相談室に行こう」という意味で、そのまま使っています。たよりを長続きさせるポイントは、定番の形をつくることでしょう。
(1) 生徒の現在の様子を伝える
 教育相談室だよりの記事は、学校・学級だよりと差別化します。
 部活動や委員会の活躍や個々の生徒の様子は他のたよりに譲ることとして、学校で発生する様々な生徒指導の情報を提供し、オープンな姿勢を貫きます。いい出来事はもちろん、器物破損などの問題行動も情報として掲載します。

 そのためにはいつもアンテナを張り巡らして、情報を収集することが求められます。
 とにかく生徒指導をねらいとするたよりは、否定的なものが多くなりますが、そのような記事ばかりでは、読み手は離れていきます。バランスが必要です。
(2) 思春期心理の話題を提供する
 思春期の抱える様々な心理的課題や、保護者のとるべき対応をユーモアを持ってわかりやすく解説します。たとえば「猿の世界にはいじめはあるのか」「お母さん、お父さんの思春期はいつ始まり、いつ終わりましたか」「テニスの女王マルチナ・ヒンギスのお母さんはほめ上手」など、興味を引くテーマを選びます。
(3) 生き方(価値)のリードをする
 教師の仕事は知識・知恵や生き方を伝えることでしょう。ここでは、生き方をテーマに教師の思いを伝えます。「我慢は人間を成長させる」「人生には敗者復活戦がある」「自分に負けない自分になれ」「頑張ってもだめなときは、頑張り方を変えてみよう」「失敗なんて怖くない。はじめての自転車は失敗ばかり」など短いポジティブなメッセージを、事例を交えて伝えます。これらのキーワードを担任が学活などでさらに深めることにより、生徒の心に響かせることができます。
(4) 意味を教える
 意味がわかれば行動が変わります。意味がわかれば雰囲気が変わります。今起こっている問題行動に焦点を当てるばかりではなく、意味を教えることが大切です。それも彼らが理解できるレベルで心を揺さぶらなければなりません。大人のレベル(視点)では伝わりません。「ダメはダメ」とか、「規則だから」といわれても生徒は納得しません。納得と説得は違うものです。
(5) 話題をタイムリーにする
  話題はいつも新鮮でなければなりません。学校で起きた問題も、現代社会の問題もタイムリーに啓サ視することが必要です。
(6) 生徒や保護者の返信欄への回答
 生徒や保護者の意見・質問をもとに、コミュニケーションをしていきます。通信がより身近になるように工夫していきます。
 いつもこのような視点で構成しています。字数は少なく、行間は広く、カットも入れます。たよりを呼んでもらえないという声も聞きますが、実は私自身もせっかく書いたものが教室のゴミ箱に捨てられ、やる気をなくしたこともありました。しかし、今は、魅力あるものは、捨てられないと信じています。

5.生徒指導の漢方薬

 各種たより(生徒指導資料)には、漢方薬のような働きがあると考えています。生徒指導の特効薬ばかり探してはいませんか。するべきことは、結構身近にあるものです。
 学校だけで生徒指導を展開する時代は終わりました。生徒指導を戦略的に組み立てることが求められています。コミュニティの一員としての学校のあり方を確立しなければなりません。コミュニティとコミュニケーションの手段として、各種たよりは機能すると考えます。そのたよりは所属教師の総意で形成され、客観性と共通理解を伴っていることが要求されます。
 学校そのものをプレゼンテーションしていかなければならない、新しい時代に突入しています。たよりの重要性はさらに増していくことでしょう。

関連記事