3つの活用場面から考える効果的なメールカウンセリング
目次
1.メールカウンセリングの長所と短所
2.メールカウンセリング特有の心理背景
3.メールカウンセリングの三つめの活用場面
4.親密感の形成が必要な場合
5.援助や支援が必要な場合
6.危機介入が必要な場面
7.メールカウンセリングの活用ルールと危険性
メールカウンセリングには、三つの視点が必要です。
第一は、長所と短所を理解して、活用することです。
第二は、メールカウンセリング利用者特有の心理的背景を理解することです。
第三は、親密さの形成、援助や支援、危機介入の、場面に応じた展開が必要です。
これらを踏まえ、通常行われているカウンセリング、教育相談、生徒指導を補完するものとしてメールカウンセリングを位置づけています。
1.メールカウンセリングの長所と短所
メールカウンセリングは、長所もあれば短所もあります。うまく活用すれば、生徒への効果的なアプローチにもなりますが、一歩間違えば、誤解が生じて生徒との信頼関係を破壊することもあります。
メールカウンセリングの長所を整理すると、次のようなものが考えられます。
(1) 相談の場所が自由で、携帯電話やコンピュータがあれば、いつでもどこでも相談できます。
(2) 相談の時間帯に制限がありませんので、常時やりとりが可能です。
(3) 教育相教室でのカウンセリングより、気楽に相談できる生徒もいます。
短所も三つに整理してみましょう。
(1) 表情や声の調子が把握できないため、双方の感情を伝えることができにくく、感情の投影が困難です。
(2) 文字だけの情報なので、誤解を回避するための工夫が必要となります。
(3) 相手によっては、相談内容を他に転送したりし、情報管理が困難です。
2.メールカウンセリング特有の心理背景
メールカウンセリングの相手は、現在のところかなり限定されています。
メールカウンセリングは、メールの活用の頻度が高い生徒となら成立しやすいのですが、メール活用頻度の低い生徒は、個人的なやりとりや連絡・情報収集が多く、内面的な感情のやりとりまでは少ないようです。メールを頻繁に利用する生徒ほど、多様な感情さえも、メールを通して語ることができます。つまり、孤独感・不安感を感じるときにもメールを利用するという傾向がみられます。メールの利用頻度が高い生徒は、「ひとりでいられる能力」の程度があまり高くありません。「ひとりでいられる能力」とは、孤独やひとりでいることから生じる不安への対処行動の能力です。孤独や不安に対する耐性の低い生徒ほど、孤独から生じる不安に対処するためにメールの利用は多くなるように感じます。
メールカウンセリングを利用する生徒は、「ふれあい欲求」が高い傾向にあります。「ふれあい欲求」とは、他者とのふれあいに不安を感じいつも、内面的には、他者とふれあいたい欲求です。「ふれあい欲求」の低い生徒ほど、メールにおけるかかわりも回避する傾向がみられます。
不登校や引きこもりの生徒は、「ふれあい欲求」が低く、メールカウンセリングが有効であるとは、一概には言えないと考えています。
3.メールカウンセリングの三つめの活用場面
メールカウンセリングは、親密感の形成、援助や支援、危機介入の、各場面で有効です。
4.親密感の形成が必要な場合
A男は友達がいません。学級や部活動の中では、からかいの対象になり、不登校になる可能性が高い生徒です。
A男も、携帯電話を買入しましたが、対等の立場でメールをする相手がいません。A男は「先生、これ俺のメールアドレス。もし、暇だったら、メールして」と言います。A男からは「先生、元気? 試合、負けた。悔しいな」「今、一人で街にいます。先生は忙しい?」など、何気ないメールを送ってきます。教師からは、<試合、残念だったね。何対何だったのかな><今、街にいるんだ。何しているのかな? 先生は、仕事中>など、教師に一言メールを送ってもらって安心します。メールが、心のビタミン剤となり、親密感が形成されます。
*「 」は生徒、< >は教師の発音を表します。
5.援助や支援が必要な場合
援助や支援のメールカウンセリングでは、短所の部分が表に出やすいようです。表情や声の調子が把握できないため、双方の感情の投影ができにくい状態となります。
B子は、勉強もでき、責任感もあり、学級代表の委員もしていました。自分には厳しいのですが、学級の仲間には、常に気を使う生徒です。親の期待が大きすぎることに悩んでいたB子のストレスは、体に出ました。
教師は<今、どんな感じかな?>と、B子の気持ちや体の反応を確かめながらメールカウンセリングを進めました。B子は「気分が晴れないという感じ」「胃が、ちくちくするの」などと訴えてきます。メールカウンセリングでは、事柄の確認や情報提供などは比較的できるのですが、感情に焦点を当てていくのは難しいです。
B子のメールは、ときには、登場人物も多く、内容盛りだくさんになります。文字だけの情報なので、返信に誤解を回避するための工夫が必要となります。B子が教師に聞いている部分と、教師が答えている部分が、異なる場合があります。その予防には、相手の発言には、顔マークや引用符をつけてコピーして、この発音に対するものであることを、明確にする必要があります。
このような支援や援助が必要な場合のメールカウンセリングも、通常の教育相談を補完するものと考えています。
6.危機介入が必要な場面
A子は、家庭環境には恵まれず、飲酒、喫煙はもちろん、深夜俳諧、家出を繰り返していました。A子から、夜、「今、友達のバイクに乗っていたら、警察につかまった。どうしたらいい」とメールが来ました。<今、どこにいるの?>「みんなで逃げた。男の友達、ひとりは捕まった」<どうして、わかるの?>「隠れて、見ていたから」<ケガとかしていない?>「大丈夫。どうしたらいいかな?」<警察に、自分で行ったほうがいい>「マジ~」<友達が捕まっているから、必ずばれるから>「わかった」<勇気を持って行くんだよ>。
危機介入におけるメールカウンセリングは、タイムリーでなければなりません。生徒の応答に対しても、短い言葉で返しながらペースを合わせて、状況の確認もします。怒りつけてもたもたすると、生徒がメールを切って連絡不能となり、事態は悪化します。
7.メールカウンセリングの活用ルールと危険性
生徒には、「送信する時間はいつでもいい。でも、返信はなるべく早くしたいが、2.3日遅れることもある」ことを事前に伝えます。生徒のメールはいつ来るかわかりません。できる範囲のサポートで十分です。
メールカウンセリングは、生徒の教師への感情転移が起こりやすいように感じます。生徒が、1日に何通も教師にメールを送る陽性転移、教師のメールが遅れると怒ったりする陰性転移、このような場合は呼び出し、面接をしてメールカウンセリングを中止することを伝えます。
メールカウンセリングの学校体制がない中で、メールカウンセリングをやると宣言することは、デメリットのほうが多いと思います。メールカウンセリングは、現在の時点では、あくまでも教育相談のツールのひとつとして位置づけるのが妥協なのではないでしょうか。しかし、今後は、メールカウンセリングに関する理論と実践が構築される可能性は十分あると考えています。