最先端のネットいじめ・ネットトラブル対応3~子供たちを取り巻くネットの闇~
目次
1.ネット依存
2.キンバリーヤングのネット依存アンケート
3.親の知らない子供のケータイ利用
(1) インターネットの依存の割合
(2) インターネットを利用する時間
(3) ネット上のケンカやトラブル
(4) 有害サイトへのアクセス
(5) 会ったことのない人とネットでやりとり
(6) ネットで知り合った人と実際に会う
4. 座間9人殺人事件
5.ネットルールづくり~子どもが作った携帯のルール~
6.ネットの問題は心の問題
(1)納得と説得は違う
(2)個は集団で育まれる
(3)ソーシャルボンド
(4)価値をリードするアプローチ
(5)発達課題は成長課題
1.ネット依存
ネット依存は、2013年の推計は52万人、2018年の推計は93万人と言われています。
中高生の7人に1人がネット依存の可能性があります。ネット依存と一言で言っても、ゲームをしている時間もあればYouTubeを視聴している時間も含まれます。深夜・早朝までネットの世界に入り込んでいる中高生もいると考えれば、かなり厳しい数字であると言えます。
このネット依存に関する厚生労働省のデータですが、簡単な調査が実施されています。
2.キンバリーヤングのネット依存アンケート
その調査が上に示した「 キンバリーヤング」と呼ばれているものです。これはアメリカの心理学者のキンバリー・ヤング博士が作成した8項目の簡単な自己診断で、5項目に当てはまった場合に依存症の危険性を警告するものです。この自己診断を全国で実施し、ネット依存の公的尺度として公表しているのです。養護教諭の先生であれば、このようなスクリーニングを上手く活用しているかもしれません。特に、質問1は全国の中高生の58%が〇を記入しています。これはかなり厳しい状況であると言わざるをえません。
3.親の知らない子供のケータイ利用
ここで、当事者の変化について考えたいと思います。小学生の携帯の新規購入は殆どがスマートフォンです。以前は、子供用の携帯電話である「キッズケータイ」が主流でしたが、現在では殆ど見掛けなくなりました。また、以前は小学校1年生から3年生まで学童保育、小学校4年生から通塾するようになり、この時期に子供の携帯所持が急増していました。ところが最近は、小学校1年生あるいは就学前でも、携帯を手にしてインターネットを利用する状況となり、SNSによる被害も中学生から急増しています。そのため、小学校で予防教育を実施しないと、中学校や高校で取り返しのつかない事態になります。
(1) インターネットの依存の割合
現在、兵庫県では7,000人程を対象に、SNSの普及率についての調査を行っています。規模としては全国調査に匹敵するものですが、これにより著しく高まっているインターネット依存の割合も明らかにされています。
(2) インターネットを利用する時間
インターネットを1日に3~4時間以上利用している高校生は47%近くに上ります。最近は、英単語のサイトなどで勉強している高校生もいますので、全ての時間でSNSやゲームに興じているとは、一概には言えません。
しかし、小学校でも3~4時間以上利用している児童が20%を超える実態には、将来的な不安を禁じ得ません。
(3) ネット上のケンカやトラブル
上のグラフは、ネット上でのケンカやトラブルに関するデータですが、子供と保護者で同じ内容のアンケートを取っています。高校生は17.2%、中学生で14%、小学生でも9.6%が「何度もある」と回答しています。
一方、子供と同じく「何度もある」と回答した保護者は高校生で8.4%、中学生で7%、小学生で4%です。
自分の子供のことを良く知っている保護者は半分にも満たないことを物語っています。
(4) 有害サイトへのアクセス
アダルトサイトなど、「18禁」を謳う有害サイトへのアクセスが「何度もある」と回答した高校生は19.5%、中学生で9.2%、小学生でも3.2%です。有害サイトは、個人認証する術が無いため、未成年者であっても自由に閲覧できるのが現状です。
一方、子供と同じく「何度もある」と回答した保護者は高校生で6.8%、中学生で4.1%、小学生で3.5%です。「あなたのお子さんは有害サイトを見ていますか?」との質問に対し、「うちの子はそんなことしていませんよ」と真っ向から否定する保護者の姿がイメージできます。
(5) 会ったことのない人とネットでやりとり
会ったことのない人とネットでやり取りしたことが「何度もある」と回答した高校生は50.7%、中学生で35.6%、小学生でも23.2%です。得体の知れない相手であるがゆえ、様々な被害に遭う危険性を孕んでいます。
一方、子供と同じく「何度もある」と回答した保護者は高校生で21.2%、中学生で14.7%、小学生で11.2%となっています。自分の子供がどんな素性の人とネットでやり取りをしているのか、保護者は平素から強い関心を持つべきだと思います。
(6) ネットで知り合った人と実際に会う ネットで知り合った人と実際に会うことが「何度もある」と回答した高校生は13.8%、中学生で5.1%、小学生でも1.9%です。面識がない人に「会おうよ」と言われて、何も躊躇することなく会いに行くのです。
40人学級に例えると、高校生の場合は5.52人が、面識がない人と実際に会っている計算です。これは、知らない人とコンサートに行く高校生が多いことを考えれば、不思議なことではありません。
子供と同じく「何度もある」と回答した保護者は高校生で4.8%、中学生で0.8%、小学生は0%です。
数十年前の公共CMで「知らない人について行ってはいけません」というのがありましたが、今では自分から知らない人に会いに行く小学生や中学生、高校生が後を絶たないという現実。これでも保護者は自分の子供を信頼して「うちの子はそんなことしていませんよ」などと断言できるのでしょうか。
4. 座間9人殺人事件
知らない人と会ったら、どうなるか。
「首吊り士」というこのツイッターには『首吊りの知識を広めたい。本当につらい方の力になりたい。お気軽にDMへ連絡ください』とあります。
これは、神奈川県座間市で、当時15~26歳の女性9人を殺害し、死体を遺棄した罪に問われた白石隆浩被告のツイッターです。2021年1月に死刑が確定しました。知らない人に会いに行けば、殺されたり、様々な事件に巻き込まれる可能性があるのです。
5.ルールづくり
保護者との間のルールづくりは、子供の携帯電話の依存傾向に関わらず、60%近くまで浸透しています。しかし、依存傾向のある子供の半数は、決めたルールを破った事が何度もあると回答しています。私のキャンプに参加した子供の中には、携帯電話の使用方法を巡るトラブルから、その保護者に対し殴る蹴るの暴行を加えた子供も含まれていました。
自分でもルールを作りますが、依存傾向のある子供の40%近くは、決めたルールを破ったことが何度もあると回答しています。学校でも携帯電話の持参禁止とか、授業中の携帯電話使用禁止といったルールがあります。 そして、友達との間にも何らかのルールが存在しています。希望の光が差し込んだのは、この学校と友達です。
学校で決められた携帯電話のルールを守ることは、必然的に友達とのルールを守ることに繋がります。その理由として、生徒会で『全員22時以降ケータイ使ってはいけないよ』というルールを決めた場合、友達も一緒に守らなければならなくなります。そうしないと、真夜中であろうと明け方近くであろうと、携帯電話を使いまくってしまいます。この点では、学校のルールは比較的有効であると考えています。
《子供が作った携帯のルール》
以下は、中学生が作った携帯のルールです。
子供が作った携帯のルール
① 21時以降、携帯はしない
② 21時以降、携帯は茶の間に置く
③ 食事中、入浴中は携帯はしない
④ フィルタリングは、必ずする
⑤ 学校にはもっていかない
①の「21時以降、携帯はしない」は当初、時間が早過ぎて上手くいきませんでした。
塾から家に帰ると21時を過ぎ、自分のラインを確認する時間が欲しいということで最終的には22時に変更されました。
②の「21時以降、携帯は茶の間に置く」は、「リビング」でも問題ありません。これは、ルールを決める際に、リーダー格の生徒が「茶の間だ、茶の間だ」と声を上げ、それを否定することなく尊重したため、このような
ノスタルジックな表現になりました。
③の「食事中、入浴中は、携帯をしない」ですが、今はお風呂の中でも使える防水携帯が販売され、入浴中にYouTubeを見たり音楽を聞くことができるため、「入浴」という言葉も加わりました。
④の「フィルタリングは、必ずする」は、有害サイトを閲覧しないよう自分たちで規制するものです。そして、⑤の「学校にはもっていかない」が入ったことで、校内でのトラブルが予防できます。
このような形で、子供たちのルール作りを支援し、学校である程度、制限をしてあげると、夜中までラインを交換したり、話し込んだりすることもなくなります。 子供たち自身が守られ、そして、精神的にも解放されて、とても楽になります。
6.ネットの問題は心の問題
心が満たされないために、ネットに逃げたり、ネットに居場所を求める子供たちがいます。大人や教師は、子供たちの心を育てることが肝要です。私が大切にしている、子供の心を育てるための考えをご紹介します。
(1)納得と説得は違う
「納得と説得」は違うと思っています。私たちが何かを訴えかけるように必死に説得しても、子供たちや保護者が納得しない限り、事態は変わりません。私たち自身も納得して初めて動きますので、納得させることをテーマに行動しないと、子供たちが「うん。分かった」とはならないと思います。相手を納得させる「技」、教育相談のスキルや幅広い知識、教育者として研鑽を積み重ねるための教材、それら全てが「教育的愛情」となって、様々な場面での問題解決に活かされると考えています。
(2)個は集団で育まれる
私は、学校という場所は、様々な事が起きてもいいと思っています。以前、中学校の教師をしていて、毎日がトラブルばかりだった時、トラブルがあっても仲間と協力して、何とかそれを乗り越えていく、
そういった「自分づくり」や「集団作り」の大切さを学びました。何もせず10年間、一人で引きこもっても何も育まれません。集団の中でこそ、個は育まれるのです。集団の中で子供たちを育てる学校教育の素晴らしさ。ここに教育の原点が存在すると信じてやみません。
(3)ソーシャルボンド
誰かと誰かを意図的に繋げていくソーシャルボンド。この重要性は今後、更に高まることでしょう。
今、子供たちはネットの世界で繋がろうとしています。リアルな場所で繋がろうとはしていません。私が小学校の時は、公園やグラウンドで小学校の4年生から6年生が入り混じって野球をしていました。最近では公園に行っても、子供たちが5人くらい集まって、自分のホータブルゲームで遊んでいます。
このような状況では、子供たちどうしが繋がりを持つことや、様々な人間関係を学ぶことは無理です。
だからこそ、あえて学校の中で子供たちを意図的に繋げていく「ソーシャルボンド」が重要であり、予防的教育の観点から「ピアサポート・プログラム」を実践していく必要があると思っています。
(4)価値をリードするアプローチ
先生方には子供たちに対して人生を熱く語って欲しいと思っています。中学生だった時をふり返って、時間の使い方や命の使い方、失敗したことや上手くいったことを話したら、子供たちはその先生に親しみを感じて好きになると思います。そして、子供たちの背中を、力強く押してあげて欲しいと思います。そういう先生は魅力的です。それが、私の提唱している「価値をリードするアプローチ」なのです。
私は、先生方に「20代30代の先生はどのように生きるのかを真剣に考えてください」「40代50代の先生はどのように死ぬかを真剣に考えてください」と真顔で言います。教員は60歳で定年を迎えます。50代の先生に残されている時間はごく僅かです。自分の教員人生をどのように全うすべきか。今一度、これまでの自分をふり返り、生きることの意義を見出すことが重要であると思っています。
(5)発達課題は成長課題
子供たちには「発達課題」と呼ばれるものがあり、小学校や幼稚園の発達課題は「良く遊ぶこと」と「友達を作ること」です。中学校の発達課題は心理学的に言うと「同性の良さを見つけること」です。
男子生徒どうしでふざけ合ったり、女性生徒どうしでつるんでいるのを見掛けると思います。移動教室でも女性生徒が3、4人でトイレも一緒に行っています。これらは、同性の良さを見つけるという、発達課題の一つなのです。
同性の良さや悪さを見つけるからこそ「俺とお前、同じくらいだよな」と客観視するようになります。身体の成長なども確認し合います。それらが基礎になって異性の良さも分かってくるのです。そして、高校3年生くらいになると、心理学的には、次の発達課題や生き方を見つけることになるのです。
子供たちだけではなく私たちにも発達課題があります。先生方にも私にも悩みがあります。例えば、家族のことや介護のこと、自分の学級のことや職場のことなど、様々な悩みを抱えています。それは、先生方と私に共通した発達課題なのです。そして、この発達課題から決して逃げてはいけないのです。それが、私たちの今後の成長課題となっていくのです。