日本の教育の現状~子ども達が危ない~

 目次
1.日本の教育の現状
2.暴力行為発生件数
3.不登校児童生徒数
4.いじめ認知件数
5.都道府県別いじめの認知件数
6.いじめ防止対策推進法
 (1) いじめの定義の改定
 (2) いじめの重大事態発生件数
7.自殺
8.ネット依存
 (1) Kimberly S. Youngの定義
 (2) 世界保健機関(WHO)の定義
 (3) 韓国のシンデレラ法

 日本の学校教育は、いじめや不登校、虐待、ネット依存など様々な問題に直面しています。臨床心理学は、いじめ、不登校、発達障害の理解や対応ばかりでなく、学級内の人間関係や、集団になじめない子供の理解、授業に集中できない子供への対応などにも活かすことができます。
 本章では、まずは日本の教育の現状をデータで確認します。次に学校教育への臨床心理学がどのように導入されていくのかを見ていきましょう。世界の優れた教育実践では、包括的学校支援(Comprehensive School Guidance & Counselling)を採用し、「すべての子供の全人的な成長」の促進を目指しています。日本ではどのような取り組みが行われているかもみていきましょう。

1.日本の教育の現状

 日本の教育の現状はとても厳しい状況です。文部科学省の報告では、2019年は不登校数23.1万人、いじめ61.2万件、加害児童生徒7.8万人と報告されています。2020年の小中高生の自殺者数は1980年以降最多の479人となり(文部科学省,2020)、毎日、子供たちの尊い命が失われています。
 更にネット依存は、2012年は51万人でしたが2018年は91万人と急増し、中学生の12.4%、高校生の16.0%がネット依存傾向と報告されています(厚生労働省,2018)。実に中高生の7人に1人がネット依存傾向である状況です。
児童相談所での虐待相談件数は、1990年は1,101件でしたが、2019年は193,780件と30年間で176倍となりました(厚生労働省,2020)。そのうち、児童生徒の虐待死亡件数は54人で、その内訳はネグレクト25人、身体的虐待23人、不明6人となり、1週間に1人は虐待死があるという悲惨な現状が浮き彫りになりました。

2.暴力行為発生件数

 図1.1は、2006年から2019年までの児童生徒の暴力行為発生件数の推移を示してあります(文部科学省,2020)。小学校の暴力行為発生件数は、2006年は3,803件でしたが、2019年は43,614件と11.5倍に急増しています。中学校・高等学校では、わずかながら減少傾向にあります。
 図1.2は、1000人あたりの暴力行為の推移です(文部科学省,2020)。2006年、小学校の暴力行為発生件数は2006年0.5件でしたが、2019年は6.8件と13.6倍と急増しています。中学校は大きな変化はなく、高等学校ではわずかながら減少傾向です。 図1.3の学年別の加害児童生徒数(文部科学省,2020)では、小学校6年生から中学校1年生にかけて、その数が大きく増加していますが、これは「中1ギャップ」と呼ばれるものです。小学校から中学校へと、学校の環境が大きく変化することにより新たな問題が発生し、生徒指導が一気に急増することが伺えます。この他にも第2成長期や反抗期など、成長とともに様々な課題が山積する時期でもあります。

3.不登校児童生徒数

 図1.4は、2006年から2019年までの不登校児童生徒数の推移を示してあります(文部科学省,2020)。小学校・中学校・高等学校の合計では、2006年は184,438人でしたが、2019年は231,372人と1.25倍に増加しています。2006から2019年の同時期の比較では、小学校2.24倍、中学校1.24倍、高等学校0.87倍となっています。高校の不登校生徒は、通信制を含む単位制学校に在籍している場合が多いようです。
 図1.5は、1000人あたりの不登校児童生徒数の推移です(文部科学省,2020)。
 2006年は小学校3.3人、中学校28.6人、高校16.5人でしたが、2019年は小学校8.3人、中学校39.4人、高校15.8人でした。2006年と2019年の比較では、小学校2.52倍、中学校1.38倍、高校0.96倍となっています。小・中学校では、不登校は増加傾にあり、高校では不登校生徒は通信制に行く事例が多数見られます。
 次に学年別不登校生徒数をみてみましょう(文部科学省,2020)。不登校も中学校になると激増します。図1.6は、2019年における不登校児童生徒数をグラフで示したものですが、図1.3の加害児童生徒数の場合と同様、「中1ギャップ」が見られます。
 「高1クライシス」とは、高等学校進学後、学習や生活面での大きな環境変化に適応できず、生徒が不登校に陥ったり、退学したりする現象。ケースの大半が高校1年時に集中していることをいいます。高校では1年生の不登校が最も多くなります。2019年、高校途中退学者数は42,882人に達しますが、この退学も一年生が最も多くなります。

4.いじめ認知件数

 図1.7は、2006年から2019年までのいじめの認知件数の推移を示してあります(文部科学省,2020)。小学校・中学校・高等学校・特別支援学校の合計では、2006年は124,898人でしたが、2019年は612,496人と4.9倍と急増しています。2006から2019年の同時期の比較では、小学校8.0倍、中学校2.1倍、高等学校1.5倍、特別支援学校8.0倍となっています。いじめが増えたのは「いじめの定義」が変更されたことも要因の一つとして挙げられます。
 図1.8は、1000人あたりのいじめ認知件数の推移ですが、2006年から2019年では、小学校8.9倍、中学校2.3倍、高等学校1.5倍、特別支援学校5.9倍、全体では5.3倍と急増しています(文部科学省,2020)。いじめの認知件数では、小学校のいじめが急増していることが確認できます。
 次に、図1.9学年別いじめ認知件数をみてみましょう(文部科学省,2020)。
 いじめは小学校低学年も多いことに驚かれるかもしれません。不登校や暴力行
為でみられた、中1ギャップがいじめでは確認できません。少し年代を戻してみましょう。
 図1.10のグラフは、2011年における「いじめ認知件数」です(文部科学省,2012)。このグラフにおいては「中1ギャップ」をはっきりと確認することができます。小学1年生のいじめ認知件数は2011年3,182件でしたが、2019年では87,759件と急増しています。幼稚園や保育園から小学校に進学する際、大きな環境変化に伴って新たな問題が生じます。これが「小1プロブレム」と呼ばれている現象の1つです。子供たちが新しい環境に上手く順応できるよう、きめ細やかにアプローチしていく必要があります。

5.都道府県別いじめの認知件数

 文部科学省の方針により、いじめの認知が積極的に進められています。そのためか、図1.11の都道府県別のいじめに認知件数には、大きな差が発生しています(文部科学省,2020)。一番いじめが多い県、一番いじめが少ない県はどこだと思いますか。2019年度、1000人あたりのいじめの認知件数では、一番多い県は宮崎県122.4人、一番少ない県は佐賀県13.8人とともに九州となっています。不思議だと思いませんか。
 文部科学省通知では、いじめの認知件数が多い学校について「いじめを初期段階のものを含めて積極的に認知し、その解消に向けた取組のスタートラインにたっている」と極めて肯定的に評価をしています。同通知では、いじめを認知していない学校にあたっては、解消に向けた対策が何らとられていなく放置されたいじめが多数潜在する場合もあると懸念しています。

6.いじめ防止対策推進法

 (1) いじめの定義の改定
 大津市中2いじめ自殺事件が契機となり、2013年にいじめ防止対策推進法が施行され、いじめの定義も変わりました。いじめ防止対策推進法第2条のいじめの定義では、「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」と定められました。この法律の成立後、いじめの積極的の認知が進められ、いじめの認知件数は急増しました。
 (2) いじめの重大事態発生件数
 いじめ防止対策推進法の第28条では、学校の設置者または学校は、いじめの重大事態に対するための調査を行うものと規定されています。同法で規定する重大事態とは、第1号「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身または財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めたとき」、第2号は「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」です。
 第1号、第2号ともに増加傾向にあり、2019年の重大事態発生件数は723件、うち第1号301件、第2号517件と報告されています(文部科学省,2020)。いじめが起こったときの的確な対応はもちろん重要ですが、いじめが起こらない予防的な学校づくりの取り組みが急務と言えます。

7.自殺

 図1.12は、小・中・高等学校から報告のあった児童生徒の自殺の推移です(文部科学省,2020)。年々、増加傾向が続いていますが、2020年はコロナ禍の影響があり479人と急増しました。
 図1.13は、学年別児童生徒の自殺の状況です(文部科学省,2019)。中学生・高校生と学年が上がるにつれて、自殺の人数が増加していることがわかります。また文部科学省では、18歳以下の自殺は、長期休業明けの時期に増加する傾向があり、新型コロナウイルス感染症に伴う長期にわたる休校は通常の長期休業とは異なり、児童生徒の心が不安定になることが見込まれることから、自殺予防などの留意事項について学校設置者に通知をしています。

8.ネット依存

 厚生労働省(2018)はネット依存の調査結果について、中学生12.4%、高校生16.0%がネット依存に該当し、推計では93万人、2012年の調査の51万人からほぼ倍増したと発表しました。この数字は、中高生の7人に1人がネット依存であることを示しています。ネット依存にはいくつかの定義がありますが、本稿では2つの代表的な定義をご紹介します。また、海外のネット依存の深刻化もご紹介いたします。
 (1) Kimberly S. Youngの定義
 Kimberly S. Young (1996)は「ネットに過度に没頭してしまうあまり、コンピューターや携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感じること、また実生活における人間関係を煩わしく感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に弊害が生じているにも関わらず、ネットに精神的に嗜癖してしまう状態」と定義しています。
 ネット依存のスクリーニングテストで、特に多く用いられているのが、「インターネット依存」の概念を提唱したキンバリー・ヤング(Kimberly Young)が作成したDiagnostic Questionnaire (DQ,1996)とInternet Addiction Test (IAT,1998)です。DQは、厚生労働省が2012.2018 年度に実施したネット依存調査に採用されています。
 (2) 世界保健機関(WHO)の定義
 世界保健機関(WHO)は、ゲームのやり過ぎで日常生活が困難になる「ゲーム障害」を、病気の名称や症状を示す「国際疾病分類(ICD)」で正式に認定しました。ゲーム症の特徴を「ゲームの優先順位が高まり、生活上の問題が生じても、その他の興味や日常の活動よりもゲームを優先して継続またはエスカレートさせる程、ゲームに対して自らのコントロールを失っており、個人、家族、社会、学業、仕事などにおける役割に重大な影響を及ぼす状態が、12ヵ月以上持続するか、上記症状が重症である」と定義しています。
 (3) 韓国のシンデレラ法
 健康や社会生活に悪影響が出ているゲーム依存は各国で社会問題となっています。韓国では2002年にゲームのやり過ぎによる死亡事故が起きました。
 その後制定されたシンデレラ法とは、青少年のオンラインゲームへの接続を規制する韓国の法律「青少年保護法改正案」の通称です。 法律の内容は「午前0時~6時まで16歳未満の青少年はオンラインゲームの接続を禁止する。」となっています。この法律により午前0時になると強制的にオンラインゲームにアクセスできなくなります。こうしたゲーム依存症・中毒患者を、日本のネット上では「ネトゲ廃人」と呼ばれています(芦崎,2009)。

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