子どもの問題行動への文部科学省の対応~学級崩壊・発達障害・児童虐待~
目次
1.いじめの深刻化
2.SC(スクールカウンセラー)の配置
3.キレる子供たちの存在
4.学級崩壊
5.発達障害
6.特別支援教育コーディネーター
7.児童虐待
8.SSW(スクールソーシャルワーカー)の配置
9.教育相談コーディネーター
10.教育相談コーディネーターの業務と校内支援体制づくり
学校を取り巻く問題は多様化・深刻化しています。特にいじめと不登校は、大きな社会問題となりました。さらに、社会に衝撃を与える様々な事件が起こり、それに対して文部科学省が施策を打ち出していきました。本章では、時系列をたどりながら文部科学省の動向をみていきましょう。
1.いじめの深刻化
1986年、東京都中野区中学生いじめ自殺事件は、学級担任がお葬式ごっこなどのいじめに加担して社会的に注目されました。その後もいじめは後を絶たず、1994年、愛知県西尾市中学生いじめ自殺事件が起こります。生徒の死後、遺書が見つかり、その悲惨ないじめの事実が社会に衝撃を与えました。
2.SC(スクールカウンセラー)の配置
1995年、酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年による神戸連続児童殺傷事件は、社会を震撼させました。そうした状況の中、1995年、臨床心理士などの“心の専門家”を全国の学校に配置するスクールカウンセラー制度が導入されました。当時の文部省(現文部科学省)が「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」を立ち上げ、全国154 校にスクールカウンセラーが派遣され、2018年度には全公立小中学校(2万7500校)への配置を目標にするところまで普及しました。
スクールカウンセラーは、子供・保護者のカウンセリングばかりでなく、心理検査や学校でのコンサルテーションなども行っています。今までSCは3次支援を得意としてきましたが、「チーム学校」の一員として1次支援、2次支援も期待されています(半田,2016)。
3.キレる子供たちの存在
1990年代から2000年代にかけて、「キレる子供たち」の存在が注目されるようになります。1998年、栃木女性教師刺殺事件(黒磯教師刺殺事件)とは、中学校内での生徒による教師刺殺事件です。この事件を起こした当時13歳の少年は、補導歴や問題行為などのない、いわゆる「良い子」「おとなしい子」であったことが社会に衝撃を与えました。少年は女性教諭に授業に遅刻したことを注意された際、カッとなって刺したという事件です。この事件で少年がナイフを校内に持ち込んでいたことが問題となり、各地で所持品検査の是非を問う論議が起こりました。
4.学級崩壊
同時期に小学校での学級崩壊が顕在化し、社会問題となりました。文部科学省の学校経営研究会(1998)により、学級崩壊は経験の少なき若い先生ばかりに起こるのではなく、ベテランの教員にも起こっていることが判明しました。
また、全国連合小学校校長会(2006)は、学級崩壊の状況にある学級は、小学校の8.9%と報告しています。河村・武蔵(2008)は、児童生徒間に一定のルールと、良好な人間関係であるリレーションが同時に確立して学級では、学級崩壊が起こらないことを実証的に明らかにし、学級経営のあり方に示唆を与えました。
5.発達障害
学校で混乱が続くなか、文部科学省が「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」を実施しました。その結果、「知的発達に遅れはないものの学習面や行動面で著しい困難を示すと担任教師が回答した児童生徒」が6.3%に及ぶことがわかりました(文部科学省,2002)。
発達障害者支援法(2004)が成立し、情動のコントロールや対人関係に課題を持つ発達障害のある子供が、通常学級に相当数在籍していることが理解されました。同様の調査では6.5%と報告されています(文部科学省,2012)。
6.特別支援教育コーディネーター
こうした状況に対して文部科学省(2003)は、特別支援教育コーディネーターを置く必要性に言及します。学校現場からは特別支援教育の専門家の配置を望む声が上がりましたが、日本にそれほど多くの専門家がいなかったこともあり、教師のなかから特別支援教育コーディネーターを指名し、研修によって彼らを専門家として位置づけるという方向がとられました。
2014年、日本政府は国連の障害者の権利条約を批准しました。インクルーシブ教育が進み、共生社会への実現に向けて追い風となるといいます(拓植,2013)。
7.児童虐待
さらに2000年代に入って表面化したのが、児童虐待の問題です。児童相談所への虐待相談件数は1990年は1,101件でしたが、2019年は193,780件と30年間で176倍になりました(厚生労働省,2020)。児童虐待防止法と児童福祉法の改正法が2019年に成立し体罰禁止が法制化されましたが、その大きなきっかけは親の虐待で子供の命が奪われる、という最悪の事態が相次いだからです。ようやく法に「児童のしつけに際して体罰を加えてはいけない」と明記されたのです。
1979年、スウェーデンが世界で初めて子供への体罰等を法律で禁止しました。その後、1989年に国連で「子供の権利条約」が発効され体罰が禁止されました。日本は2019年によくやく「児童虐待防止法」と「児童福祉法」が改正され、世界で59番目の体罰全面禁止国となったばかりであり、取り組みが遅れているといえます。
8.SSW(スクールソーシャルワーカー)の配置
家庭や関係機関との連携推進のために、SSW(スクールソーシャルワーカー)が導入されました。2008年より文部科学省,「スクールソーシャルワーカー活用事業」が始まり、学校と家庭や地域(関係機関)をつなぐ人材が全国の自治体において活動しています。SSWは、教育と福祉の両面に関して専門的な地域・技能を有するとともに、教育や福祉の分野に活動実績のある、社会福祉士や精神保健福祉士などが多いです。
厚生労働省(2017)が発表した「平成28年国民生活基礎調査」によると、日本の相対的貧困率は15.6%となり、7人に1人が貧困状態にあると言われています。相対的貧困率の15.6%のうちの半数がひとり親世帯であることも大きな問題です。ひとり親の場合、家事、仕事、育児を一人で行わなければなりません。例えば、親はお金を稼がなくてはいけないため深夜まで仕事をし、家に帰れないというケースです。日々の疲労やストレスが蓄積されていくと身体的・精神的な問題や虐待にもつながりかねません。
2014年、「子供の貧困対策の推進に関する法律」では、子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることがないように、学校を子供の貧困対策のプラットファームに位置づけました。
SSWは、問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけや、関係機関等とのネットワークの構築・連携・調整での活動が専門であり、虐待やDV、貧困などの対応に期待されています。
9.教育相談コーディネーター
文部科学省(2017)は「児童生徒の教育相談の充実について(通知)」を出し、「学校において、組織的な連携・支援体制を維持するためには、学校内に、児童生徒の状況や学校外の関係機関との役割分担、SCやSSWの役割を十分に理解し、初動段階でのアセスメントや関係者への情報伝達等を行う教育相談コーディネーター役の教職員が必要であり、教育相談コーディネーターを中心とした教育相談体制を構築する必要がある」と述べ、「教育相談コーディネーター」という言い方を打ち出しました。
1995年以降の20年間は、いじめ•不登校・発達障害•学級崩壊•虐待•貧困•自殺などの問題が次々に顕在化しました。そうした問題に対して、SC、特別支援教育コーディネーター、SSWを配置するなど、さまざまな施策が打たれた時期といえます。
10.教育相談コーディネーターの業務と校内支援体制づくり
文部科学省(2017)「児童生徒の教育相談の充実について(報告)」には、教育相談コーディネーターの主な業務が8つ挙げられています。
① | SC、SSWの周知と相談受け付け |
➁ | 気になる事例把握のための会議の開催 |
➂ | SC、SSWとの連絡調整 |
④ | 相談活動に関するスケジュール等の計画・立案 |
⑤ | 児童生徒や保護者、教職員のニーズの把握 |
⑥ | 個別記録等の情報管理 |
⑦ | ケース会議の実施 |
⑧ | 校内研修の実施 |
今西(2013)は、教育相談コーディネーターを活用した校内支援体制づくりを進めるにあたって、協働的な学校風土を背景に、管理職のリーダーシップ・バックアップのもと、システム、サイクル、コーディネーターという3つの視点が歯車のように相互に関連し合って機能していくことが重要であるとしました。
ここで、システムを機能させるために考えたのがサイクルの視点です。ここでは、アセスメントから支援に向かう一貫したマネジメントサイクルを、年間を通して機能させていくために、児童生徒の支援をめぐる取組を年間行事計画の中に具体的な取組としてどう位置づけ、年間を通して一つ一つの取組をどうつなげていけばいいか検討します。そして、こうした支援のシステムとサイクルを実際に機能させるよう調整し、運営していくのがコーディネーターの役割です。これらの点が相互に機能し合って、各校の実態に応じた支援体制づくりが可能になるといいます。