なぜ、いじめは見えないのか?

1 心が痛くなる大津いじめ事件
 なぜ、いじめは防げないのか。2011年10月11日に滋賀県大津市内の中学校の当時2年生の男子生徒がいじめを苦に自殺するに至った。複数回顔を殴られる、口に粘着テープを貼られ、手足を鉢巻きで縛られる、蜂の死骸を食べさせられそうになる、自殺の練習をさせられるなどのいじめを受けていた。事件前後の学校と教育委員会の隠蔽体質が発覚、問題視され、大きく報道された。その後、2013年に「いじめ防止対策推進法」が可決成立・施行されました。その施行以後、現在に至っても、やはりいじめ自殺の報道は後を絶ちません。

2 都道府県別のいじめ発生率と自殺
 文部科学省では、毎年いじめの都道府県別の調査を公開している。平成30年度、全国一いじめ発生率が少ないと報告している佐賀県では、小中高校、特別支援学校で、児童生徒1000人あたりのいじめ発生率を9.7人と発表している。一番いじめ発生率が高い多い宮崎県では、千人あたりの発生率を101.3人。二番目に多い県は、大分県で同様の発生率を92.4人。三県とも九州となっているが、そんなに子供たちは違うのだろうか。
 平成30年度、小中高校の自殺する児童生徒は年間332人であったが、いじめは9人だけである。原因不明は194人。我々、大人たちは、子供たちの命を守ることができていないのである。
3 いじめの4層構造
 日本生徒指導学会会長などを歴任した森田洋司教授が、いじめの4層構造を提唱した。いじめが固定化し長期化したときの学級は劇場のようになっているという。学級が<加害者><被害者>ばかりでなく、いじめをはやし立てる<観衆>、いじめに対して我関せずという<傍観者>の4つの構造になる。この状況になったときいじめを止める人間は存在しない。最近のいじめは、最後の砦となるべき教師がいじめの加害者、観衆、傍観者になり、いじめを助長していることが問題である。その生徒は本当に自殺を考えてしまうだろう。

4 なぜ、子供はいじめを訴えないのか?
 いじめでの自殺が起こると、「なぜ、自殺したい気持ちを親に相談しないのだろう」と思う人も多いのではないだろうか。いじめを親や先生に相談すると「チクッた」と言われ、いじめが大きくなるから相談しない。これは子どもたちの心理を表すには不十分である。小学校低学年なら「○○ちゃんにいじめられた」とすぐに言えるが、中学生にもなると言えない。自尊感情が芽生え、学級の中で虫けらのように扱われている自分を責めるからである。親にはいじめられている自分のことを知られたくないのである。いじめが深刻化すると、「自分はダメな人間なんだ」「存在しなくてもいいんだ」と孤立感を更に深めていく。いじめは親さえも気付かないまま進行し、自殺に追い込んでしまう。

5 察知能力を高め、いじめのサイン(SOS)をキャッチ
 子どものSOSに気づけない鈍感な教師も現実にはいます。子どもが不幸になることは言うまでもない。いじめの発見のサインは、①表情・言葉遣いの変化 ②ケガや身体の変調 ③成績の下降や忘れ物の増加 ④仲間関係の変化 ⑤服装の乱れや変化 ⑥持ち物の紛失や金銭の使い方の変化 ⑦理由のはっきりしない欠席や遅刻 ⑧保健室・職員室への頻回訪問、など多々ある。家庭では特に日頃からの親子の対話が重要であることは言うまでもない。我々、大人がその小さなSOSに気づく、察知する力を持たなければならない。

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