生徒指導の現状と金山流生徒指導

 目次
1.日本の子どもたちの現状
2.学校で大切なこと
 (1) 指導ラインが違うと学校は荒れる 「ベクトル」を揃えることの重要性
 (2) 学校経営は「先生方の仲の良さ」が重要
 (3) モグラ叩きの生徒対応から予防的な生徒対応へ
 (4) ホームランバッターより3割バッター
 (5) 「学校の力」=「教師の力量の総和」×「組織力」
 (6) 問題行動を起こす生徒の心理
 (7) 進路指導と学習指導は「極上の生活指導」
 (8) 生徒を繋げる「ソーシャルボンド」
3.学校課題の推移
 (1) 荒れる小学校
 (2) 激増する「通級指導」「特別支援」「要保護、重要保護」

 

1.日本の子どもたちの現状

(1) 当てにならない内閣府の「引きこもり調査」
 内閣府が2015年に発表した引きこもりの数「54万人」ですが、正直申し上げて、当てになりません。内閣府では潤沢な予算を背景として「引きこもりに関するアンケート」を一斉に郵送していますが、その中には「あなたはいつから引きこもりましたか?」「あなたの引きこもりの原因はなんですか?」「どうやったら立ち直れますか?」といった質問項目が並んでいます。
しかし、実際に引きこもりの状態にある方が、そのような質問について真剣に回答するでしょうか?私はしないと思います。しかも、一斉に郵送したアンケートの数に対して、戻って来るアンケートの数は当然少なくなりますが、これらを集計して引きこもりの数を算定しているのが実情なのです。

(2) 想像以上に多い「引きこもり」
引きこもりに関しては、「引きこもり親の会」の活動やNHKによる全国調査、大学における研究など、様々な取り組みがあり、それらを合計すると約160万人と言われています。
この数は青年期の人口比で割ると約3人となりますが、学校を卒業しても自立できずに引きこもっている人の数は、想像以上に多いことが伺えます。
以前、「東京大学の発達障害をどうするか」という雑誌が東京大学から出版され、大変な反響を呼びました。これと同様の雑誌は京都大学からも出版されていますが、学生の発達障害に苦悩する大学の現実が浮き彫りにされています。
優秀な成績の学生であっても、人間関係の構築ができないため、就職してもすぐ辞めて引きこもってしまいます。引きこもる可能性のある子供たちに対して、どのように逞しさを身に付けさせるか、これが今後の教師の課題であると私は考えています。

2.学校で大切なこと

(1) 指導ラインが違うと学校は荒れる 「ベクトル」を揃えることの重要性
私も札幌の中学校で長く教師を勤めてきましたが「服装」や「携帯電話」「チャイム席」といった「指導ライン」が1年、2年、3年で違うと学校は荒れます。これは小学校でも同じです。1年、2年で丁寧に育て、落ち着いた学級。3年、4年では担任の先生が変わり、ちょっと中だるみに。そして5年、6年で学級崩壊。このような状況も珍しくありません。

(2) 学校経営は「先生方の仲の良さ」が重要
小学校でも中学校でも指導の方向性を揃えることが大切です。そのためには、先生方の仲が良いことも重要です。生徒指導は生徒だけではなく保護者の対応にも厳しさが伴いますので本当に大変です。しかし、先生方の仲がいいと結構、耐えていくことができます。
逆に、これが上手く機能しないと学校経営は相当な困難性を伴うものになると思います。

(3) モグラ叩きの生徒対応から予防的な生徒対応へ
いじめが起きてから対応する、不登校になってから対応する、問題が大きくなってから対応する。モグラ叩きのような生徒対応では疲労困憊してしまいます。だからこそ予防的な生徒対応が有効です。

(4) ホームランバッターより3割バッター
野球では、ホームランバッターが1人いるチームよりも、守備が上手い、走塁が上手い、バントが上手いといった3割バッターが何人かいるチームのほうが底力を発揮します。
これと同じで、ホームランバッターのような、何でもできる優秀な先生が1人で支えている学校は、その先生が転勤・退職した途端に力を失い、様々な問題が発生します。
しかし、3割バッターのような、それぞれに違った強みを発揮できる先生が、何人かいる学校は、協力し合うことによって困難な問題を解決する強い力を持ち合わせています。
だからこそ、日頃から「3割バッターの先生」を増やしていく取り組みが重要です。

(5) 「学校の力」=「教師の力量の総和」×「組織力」
 ここで言う「教師の力量の総和」とは、「A先生の力」「B先生の力」「C先生の力」を、合算したものです。これに「組織力」を乗じたものが「学校の力」となります。
「組織力」とは「組織として団結することにより発揮される力」を意味していますので、「組織力」の値が大きいほど「学校の力」も大きくなります。しかし、「組織力」がゼロであれば、「教師の力量の総和」がどれだけ大きくても、「学校の力」はゼロとなります。
 どこの教育委員会も教員の採用数を増やすよう求めている傾向が強く見受けられますが、現実的には無理です。だからこそ、「チーム支援」を主体とした取り組みによって「組織力」を上げていく必要があると考えています。

(6) 問題行動を起こす生徒の心理
 学校で問題行動を起こして少年院に入っていた私の教え子が出所して、成人した後に、彼らと酒を飲む機会がありました。当時をふり返り、学校に来ても校舎を徘徊して授業を受けなかったことや、壁を蹴飛ばして壊したこと、給食だけを食べに来ていた理由を彼らに聞いたことがあります。その時の答えは「だって先生、勉強したら馬鹿がバレるもん」。

(7) 進路指導と学習指導は「極上の生活指導」
中学校の場合であれば、成績不振など進路に対する夢が何かわからなくなった生徒は、結構荒れます。「俺はもうどうでもいいや」と自暴自棄になってしまうのです。私は当時、そのような彼らを、とにかく授業に出させようと必死でしたが、大失敗に終わりました。
後になって考え直してみると、急に数学の二次関数をやる、英語の現在完了をやるにしても、授業に出ていないので、彼らには全く理解できなかったのです。
私はそれ以後、どんな子でも「勉強したい」という気持ちがあるんだという反省のもと、不良行為が目立つ生徒や発達障害の生徒に対して個別に学習指導を行うようになりました。

(8) 生徒を繋げる「ソーシャルボンド」
「ソーシャルボンド」とは「誰かと誰かを意図的に繋げる」ことを意味した心理学用語です。誰かと繋がっていれば不登校はなくなります。いじめもそれほど酷い状況にはなりません。児童・生徒同士を繋げることによって問題の発生を予防しようとするものです。
ただ、今の子供たちはゲームをしている時間のほうが長いですので繋がりも希薄です。だからこそ、私たち教師が学級経営の一環として児童・生徒を意図的に繋げていくのです。養護教諭の先生も保健室において繋げていくことが重要です。全ては予防的な取り組みに帰結します。

3.学校課題の推移

(1) 荒れる小学校 平成6年と26年を比較した不登校児童生徒の割合が小学校で2.2倍、中学校は2.1倍。平成18年と26年を比較した学校での暴力行為件数も小学校で3倍、中学校は1.2倍。
 小学校は荒れています。昔なら結構のんびりしている学校もあったかもしれませんが、「モグラ叩きの生徒対応」から「予防的な生徒対応」への転換が求められています。

(2) 激増する「通級指導」「特別支援」「要保護、重要保護」
 通級指導の児童生徒の割合が小学校で5.9倍、中学校では23.5倍と、激増しています。
 特別支援に在籍している児童生徒の割合も小学校で2.1倍、中学校では1.9倍。要保護、重要保護の児童生徒の割合が小学校で1.7倍、中学校では2倍と、いずれも急増しています。今後、この数値は上昇の一途を辿ります。言い換えると今の児童生徒が最も良いのです。

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