協同学習とグループ学習との違い

 目次
1.協同学習とは?グループ学習との違いは?
 (1) グループ学習の効力と成果
 (2) 「児童の知能SS」と「ノート創り」の相関
2.グループの振り返りの重要性
3.グループの改善手続きとフィードバック
4.障害の比較
 (1) 障害の比較
 (2) 面積で表す障害の大きさ
 (3) 良好な環境整備の重要性
5.学級と支援を要する生徒の実態に合わせる
6.学習過程の多様性

1.協同学習とは?グループ学習との違いは?

(1) グループ学習の効力と成果
 これは「グループの成果曲線」と呼ばれるグラフです。グラフの縦軸には「成果水準」、横軸には「グループの効力」が取られ、左下には「個別のメンバー」として4人グループ学習している状態を表しています。
 グラフは右下がりに曲線を描き、そこには「見せかけのグループ」と書かれています。これはグループ学習が成立していない状況で、1人で学習するよりも成果が低い状態であることを示しています。つまり、グループ学習をしない方が良いということです。
 そこからグラフは大きく右上がりして、そこには「旧来の学習グループ」とあります。
 これはグループ学習がそれなりに機能している場合は、この成果水準までは学習の効果が上がることを意味しています。
 そして、グラフが更に右上がりしていくと、そこには「協同学習グループ」とあります。先述したグループ学習ではなくて協同学習になると、より多くの成果が上がります。
 グループ学習と協同学習の違いを振り返ると、グループ学習は、グループを作った時、すぐに相談を始めますが、協同学習の場合は、一度自分で考えてからグループで共有し、
 その後、全体共有するという段階的なプロセスを経ています。それだけに、グループ学習よりも学習効果が高いのです。
 これは「三人寄れば文殊の知恵」という原理の「グループジーニアス」という考えで、突拍子もない様々な考えが飛び出します。
 文部科学省でグループ学習とアクティブラーニングを推奨していた時期がありましたが、ただ賑やかなクラスと化してしまい、結局、学力の向上には繋がりませんでした。
 これは、グループ学習と協同学習の違いが明らかではない段階で実施したことが最大の理由です。決してグループ学習とアクティブラーニングの内容が悪いのではありません。その実施方法に問題があったのです。

(2) 「児童の知能SS」と「ノート創り」の相関
 このデータは「児童の知能SS」を示したものですが、簡単に言うと「児童の知能検査の結果と授業中のノート創り」の評価です。私たちは授業中にノートを取らせていますが、
 それは効果があることなのか否か、中にはノートを全く取らない子供もいるわけです。
 このグラフには「知能SSとテストの得点率は相関する」と記述されており、黒いグラフは知能SS平均以下の子供の得点率平均、灰色のグラフは知能SS平均以上の子供の得点率平均をそれぞれ表しています。つまり、知能SSが平均以下と平均以上の2つのグループに分けているわけです。もしこれでテストを行えば、明らかに知能SS が平均以上の子供が平均以下の子供よりも高い得点を取るのは想像に難くありません。
 しかし、知能SSによってテスト結果が決まるならば学習方法の改善は意味がありません。そこで、授業終了の5分間くらい前に、先生が「さぁ、今日やったことをまとめてみよう」と告げ、授業中にノート創りをした子供たちのグループと、そうでないグループに分けて検証したのが右側2つのグラフです。
 すると、授業中のノート創りをしていないグループで、知能SSが平均以下の子供たちを「分類なし」の得点率平均49点と比較すると10ポイントほど低い39点になっています。 
知能SSが平均以上の子供たちも15ポイントほど低い58点になっています。
 つまり、「ノート創り」という最後のまとめがしっかりできていないと、成績が低下することが証明されているのです。逆に言えば「さぁ、今日やったことをまとめてみよう」と、授業が終了する最後の数分間で子供たちにノート創りを促せば、知能SSが平均以下の子供たちであっても得点率の平均が57点まで上がっています。これは「ノート創り」をしていない知能SSが平均以上の子供たちの得点率の平均58点と殆ど変わりません。
 授業の最後のほうで「自分たちでしっかりまとめてみようね」と子供たちにノート創りを促してふり返る。これだけでも授業の効果はかなり違ってくるのです。

2.グループの振り返りの重要性

 先述した「私の授業スタイル5」において、世界の人口密度の高い国、上位10ヵ国を、グループ学習で実体験してもらった時、「どうすればグループの正解率が上がったか」と、振り返ったのを覚えていますでしょうか?
 これは「直前テスト」と「一定期間後の保持」をそれぞれ対比したグラフで、向かって左側が「個別学習」、真ん中が「改善手続きなしの協同学習」、右側が「改善手続きありの協同学習」を示しています。また、縦軸には「正答率」が取られています。
 個別学習において直前テストを行った場合は、正答率が65、一定期間後の保持は58です。個別に勉強しても成績は下がっています。改善手続きなしの協同学習において直前テストを行った場合は、正答率が78、一定期間後の保持は73です。個別学習に比べて成績は良くなっていますが、それでも一定期間を経ると成績は少し下がっています。
 そして、改善手続きありの協同学習において直前テストを行った場合は、正答率が87、一定期間後の保持も87です。これは、「どうすれば次はもっと良くできるだろう」という振り返りを毎回行っている状況です。他の学習に比べ、圧倒的に成績が伸びていること、また、その成績も維持されていることが、はっきりとご確認頂けると思います。

3.グループの改善手続きとフィードバック

 協同学習におけるグループの改善手続きとフィードバックを行うポイントについて解説します。「今日の授業でわかったことはなんですか?」「グループでやってよかったことは何ですか?」、更に「もっとグループ活動をよくするために必要なことはなんでしょうか?」という3つの質問をすることにより、今日の授業で、自分がどんなことで役に立ったかを振り返ることができます。この場合、「問題」や「悪いところ」ではなく、「できたこと」に焦点を当てた振り返りが重要です。
 そして、「できたという感覚」が報酬(強化)となります。強化とはS-R理論において、即時褒めてあげたり、即時何かをしてあげると、行動がすぐに改善できるということです。
 この「報酬」に関して言えば、個人学習よりも協同学習の方が、受ける人数も量も増え、その質も学習と人間関係双方への動機付けになる、ということが分かっています。

4.障害の比較

(1) 障害の比較
 この図は、WHO(世界保健機関)が発表している「障害の比較」と呼ばれるものです。左側のA君と右側のB君の機能障害の大きさについて、横方向の「長さ」で表しています。 
 すると、A君のほうがB君よりも機能障害が大きいことがわかります。しかし、A君とB君とでは、彼らを取り巻く環境要因が異なります。A君のほうがB君よりも機能障害が大きいのですが、良好な環境要因があります。A君の場合は、担任の先生にも理解があり、親も理解があります。友達にも理解があり、いじめもありません。
 一方のB君は、A君よりも機能障害が小さいのですが、不適切な環境要因が存在します。B君の場合は、担任の先生に理解がなく、親も理解していません。友達も理解してくれず、いじめもあります。

(2) 面積で表す障害の大きさ
 つまり、A君とB君を単に機能障害の大きさだけではなく、彼らを取り巻く環境要因を考え合せなければ、彼らの障害について正しく比較することはできません。そこで、この障害の大きさを「面積」で表すと比較が可能になります。
 もう一度、この図を見てみましょう。A君もB君も機能障害の大きさは横方向の「長さ」で表されますのでA君のほうがB君よりも長くなります。
 そして、A君とB君を取り巻く環境要因は、その悪さが縦方向の「高さ」で表されます。するとA君には良好な環境要因がありますので、A君のほうがB君よりも低くなります。一方、B君には不適切な環境要因がありますので、B君のほうがA君よりも高くなります。
 機能障害の大きさである「長さ」と、彼らを取り巻く環境要因の悪さである「高さ」を乗じたものが、この図で示された長方形の面積であり、この面積の大小を比較することで、A君とB君それぞれの障害の大きさを正しく比較することができるのです。

(3) 良好な環境整備の重要性
 もし、この図の中の「機能障害」を「学習障害」に置き換えて考えると、良好な環境を整備すれば「学習障害」の大きさを表す面積は、おのずと小さくなるはずです。
つまり、私たちは、幼稚園教育においても、特別支援教育においても、高校においても、小学校においても、学習支援において良好な環境づくりをしていく必要があるのです。
障害と環境を絡めて「良好な環境づくり」を考えることを、私たちは「合理的配慮」と呼んでいます。決して子供の障害だけを見てはいけないのであり、子供を取り巻く環境によって、障害の大きさが決まることを強く意識する必要性があるのです。
皆さんが小学生だった時を思い出してください。和気藹々として元気が良く、危ないと思っても、ちゃんと居場所があって適応している。そのような子供がいませんでしたか? 
周りの子供や担任の先生の配慮もあってクラスに適応できていたので、障害があっても目立たなかったのです。そのような環境にしようと試みるのが「合理的配慮」なのです。

5.学級と支援を要する生徒の実態に合わせる

 これは40人学級をイメージしたものです。目のイラストは目からの情報、手のイラストは手からの情報、耳のイラストは耳からの情報をそれぞれ意味しています。
 皆さんは、目、耳、手、どこからの情報収集を得意としていますか?私たちは普段から「可視化」という言葉を何気なく多用していますが、これは目で見えるようにすることで情報共有が容易になることを知っているからです。
 ですから、授業の中でも「可視化」は必要であり、目で見える情報を意図的に流すこと、つまり「目に訴える指導」が基本となります。キーワードで捕捉するなど耳からの情報、そして、操作する教材を提示するなど、手からの情報も重要です。
 つまり、学級と、支援を要する生徒の実態に合わせるために、目と耳と手を一緒に教材の中で使うのです。発問した時、これらが一緒に入っていることが特に重要です

6.学習過程の多様性

 特別支援教育にも言えることですが、目と耳と手の全てを学習過程に組み込む方法は、その効果が圧倒的に高いということが判明しています。
 目や耳や手からの情報が入力され、それを記憶したり想像したり、比較したり、様々なことを概念化しています。しかし、日本の教育が今一歩及ばない点は、「出力」トレーニングの弱さに起因しています。
「英語」を例に振り返ると、私たちは一生懸命、中学から大学まで勉強してきました。英単語や構文などをたくさん覚え「入力」を行いました。しかしながら、なぜか話せない。
 これは「出力」をしていないからなのです。出力トレーニングを幼稚園から特別支援、高校まで継続的に行うことが大変重要です。とにかく「出力」をさせなければなりません。
 協同学習の場合は自分で良く考え、グループで相談したり、表現したり、発表したりと、「出力」することに重点を置いていますので、子供たちの学習効果が絶大なのです。

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