UDL(学びのユニバーサルデザイン)で、すべての子どもの学習を支援
目次
1.UDL(Universal Design for Learning)
2. 特殊教育から特別支援教育への転換
3.「合理的配慮」に対する考え方
4.合理的配慮(ココロ)
(1)「ココロ」それとも「トトロ」?
(2) 漢字が読めない生徒
5.学級と支援を要する生徒の実態に合わせる
6.学習過程の多様性 ~入力して、しっかり出力することの重要性~
7.出力トレーニングの重要性
1.UDL(Universal Design for Learning)
UDL(特別支援教育)は、「学びのユニバーサルデザイン」を意味する「Universal Design for Learning」の頭文字を取ったものです。
2. 特殊教育から特別支援教育への転換
左上に「IQの分布」と書いてありますが、「IQ」は多くの場合、正規分布しています。左下は「知的障害」で、そこから横軸に沿う形で「盲・聾・肢体不自由」です。こちらは、IQが徐々に低くなりますが、IQの高い子供も含まれています。
この「知的障害」「盲・聾・肢体不自由」「発達障害」の3つが重なっている左下の辺りに該当する子供は「特殊教育」を受けています。しかし、発達障害は知能の低い子供から高い子供まで存在しているわけで、驚くことに東大の発達障害の学生もいるんです。
これは面白い話ですが、ある大学で発達障害の先生方の勉強会があったんです。それも結構有名な大学です。その中で、発達障害の学生が、将来就いた方がいいと思う職業を、先生方が選ぶのです。その1位は何だと思いますか?実は大学教員なのです。大学の先生ってコミュニケーション能力に問題があるとか、発達障害の方が結構いるかもしれません。
話を戻しますが、右側は「特殊教育」ではなく「特別支援教育」となっています。その中には「スローラーナー」という、ゆっくり学べる子供もいますし「2E」の子供もいます。
この「2E」とは、「2つの特別な学生たち」という意味で、簡単に言えば「発達障害」が見られるが、知能は特別に高いという子供たちです。
アメリカの大学、例えばハーバード大学にはコミュニケーション能力は低いが、能力は高い学生が多数在籍しています。そのような学生に予算を投じて特殊な教育を受けさせ、特別に鍛えているのです。日本でこのような教育を行えば、平等じゃないと言われますが、アメリカの場合は、このような子供の才能を伸ばしてノーベル賞を取らせると社会貢献になるという考え方なのです。
今では、多くの国々がそのようになっています。例えば、身近な国、台湾もそうです。発達障害で勉強できる子供に特別な教育をしていくのです。彼らが発明をして、産業界で様々な貢献をして技術革新をもたらす流れができているのです。日本の場合は、とにかく平等にしなければならず、特別支援教育に対する考え方の根本的な相違があると思います。
3.「合理的配慮」に対する考え方
この図は、WHO(世界保健機関)で行っている「障害の比較」を示したもので、左側のA君と右側のB君、それぞれの「機能障害の大きさ」を、横方向の長さで表しています。すると、「機能障害の大きさ」は、A君が重度でB君が軽度であることがわかります。
これに、「不適切な環境要因」の大きさを縦方向に加えると、A君は、親も理解があって友達もいるし、先生もいい。すると、縦方向の大きさは微々たるものです。一方のB君は、親も先生も理解がなく、友達からもいじめられている。すると、縦方向に大きくなります。
そして「機能障害」と「不適切な環境要因」のそれぞれの大きさを乗じると図のように両極端な長方形が2つ現れます。この長方形の面積が比較対象の「障害の大きさ」です。
B君の機能障害は軽度ですが「障害の大きさ」はA君よりも大きくなります。つまり、「障害の大きさ」とは「機能障害の大きさ」だけではなく「不適切な環境要因の大きさ」も加味することが必要なのです。これはWHOが提唱する「合理的配慮」の考え方です。
4.合理的配慮(ココロ)
(1)「ココロ」それとも「トトロ」?
さて、皆さん、これは何と読めますか?以前、ある町の校長会研修に行ったんですが、その時、お偉い校長先生が手を上げました。私は当てざるを得なくて当てました。その校長先生は、これを「トトロ」と読みました。確かに読めなくはないですねトトロに(笑)
こういうのを子供たちにやってあげると子供たちは結構喜びますよ。こういう教材ってすぐ作れますから。このように、ちょっとしたサポートをしてあげるだけで、良く読めるようになる、これを「合理的配慮」と呼んでいます。
(2) 漢字が読めない生徒
以前、私は東京都内の定時制の学校に呼ばれたことがありました。そこは、発達障害の生徒も多く、授業も聞いていないため勉強が全くできません。それを見かねた校長先生が、「この授業どうしたらいいですか」と私に尋ねたんです。「では授業を見せてください」とお返事をして、後日、実際に見に行ったら、はっきり言ってぐちゃぐちゃの状態でした。
一人一人を観察すると、とても良い生徒さんなのです。教科で言うと何ができていないと思いますか?実は、国語ができていないのです。つまり、漢字が全く読めないのです。
発達障害の中で比較的多いのが学習障害です。私が訪ねた時に対策としてテストに全部ルビを振ろうと決めたのです。国語ができなければ、数学や社会、理科に出てくる漢字も読めません。そしてルビを振ったら全教科の平均点が20点も上がりました。こういうのを私は「合理的配慮」と呼んでいます。
小学校の3年生くらいの算数で、漢字が読めなかったら私たちも解けません。例えば、こんな感じです。「一(カッコ内はわからない漢字)三十( )の( )が五( )」と言われても、全くわからないですよね。これはどういう設問かと言えば「一冊三十円の本が五冊」です。これで「合計の金額はいくらですか?」と問われても、漢字の部分が何も読めなければ、全く解けなくなるのです。だからこそ「合理的配慮」は、とても大切だと思っています。
5.学級と支援を要する生徒の実態に合わせる
これは40人学級をイメージした図ですが、目や耳や手からの情報それぞれに得意な子供がいるという状況です。先生方は目と耳と手からの情報だと、どれが最も得意でしょうか?恐らく目からの情報が得意な方が圧倒的に多いと思います。手の方も結構いると思います。耳という方は少ないと思います。実は、私たちは目からの情報が最も多く入るのです。
授業で黒板の板書がぐちゃぐちゃだったり、パワーポイントも字ばかりで読みにくく、目からの情報が入りにくい先生って結構いらっしゃいますよね。それどころか何も作らず一方的にダラダラと話すだけの先生。このような情報は子供たちには入っていきません。
つまり、目に訴える指導を基本に、キーワードで補足したり、操作する教材を提示するなど、目と耳と手の全ての感覚を使って、子供たちに情報を伝えることが重要なのです。
6.学習過程の多様性 ~入力して、しっかり出力することの重要性~
しっかり「入力」し、それを頭の中で「処理」して「出力」しないと勉強ができません。「英語ができない日本人」は何かというと、一生懸命、私も含めて「入力」したのです。皆さんもやりましたよね。短文を覚えたり、単語を暗記したり、長文読解をやったりと。
その学習の結果、頭の中には入りました。しかし「外国人に話す」という「出力作業」をしなかったのです。だから、結果として、英語の学習がダメになってしまったのです。
ペーパードライバーの方もいらっしゃると思いますが、一生懸命、自動車学校に通って学科で道路交通法などの法規を入力し、助手席に教官が乗った教習車で運転技術を入力し、卒業検定を経て運転免許を取得したのです。
しかし、その後、ハンドルを握ることもなく、何年もペーパードライバーのままですと、運転ができなくなってしまいます。それと全く同じで、出力作業がとても重要なのです。
7.出力トレーニングの重要性
さて、皆さん、ちょっと出力作業をやってみましょう。「四大文明」の地域と川を左上の地図に書き入れてみてください。でも「四大文明」を忘れていたら、かなり厳しいですね。
では、解答しましょう。右上の地図をご覧ください。「四大文明」は色で示した地域です。
それぞれ、黄河文明と黄河、インダス文明とインダス川、メソポタミア文明とチグリス・ユーフラテス川、エジプト文明のナイル川ですね。インダス川はガンジス川と間違って、逆に書いている方もいらっしゃるかもしれません。
さて、ここで問題です。これらの文明の近くには首都があります。その4つの首都名を書いてください。
では、解答しましょう。左下の地図をご覧ください。黄河文明は中国、その首都は北京です。インダス文明はインド、その首都はニューデリーです。メソポタミア文明はイラク、その首都はバクダットです。エジプト文明はエジプト、その首都はカイロです。
かつては一生懸命覚えたはずなのに、今やってみると、四大文明の川がどこにあるのかわからなくなっている。それは、日本の教育が「入力トレーニング」ばかりに一生懸命で、「出力トレーニング」を全くやらなかったからなのです。だから「出力トレーニング」をしっかりやらないと、子供たちは勉強ができなくなるのです。