女性教師に暴言を吐く・暴力を振るう生徒への対応事例~生徒にバカにされないために~
目次
1.対教師暴力の実態と生態学的視点からの生徒理解
2.耐性の低下と対教師暴力のメカニズム
3.女性教師の暴言・暴力の対応事例
(1) 興奮した生徒への対応
(2) 暴言・暴力の段階
(3) S先生の教育相談での対応
4.失敗・挫折は成長のための発達課題
執筆日…2003年(平成15年)
1.対教師暴力の実態と生態学的視点からの生徒理解
対教師暴力は、平成12年度、5,696件を数えている。内訳は、中学校で4,678件、高校で814件、さらに小学校でも240件に達している。生徒は、女性教師だからといって、手加減はしない。女性教師が生徒から暴言、暴力を受けている場合も多数あり、相当のストレスに直面している。心理、発達、環境、教育の視点からアセスメント(診断)し、学校全体でストラテジ(戦略)を立案していくことが重要である。
最近の生徒は、ストレス耐性が低いと言われ、ちょっとしたことで「キレ」、暴言、暴力を平気で行う。生徒の攻撃性を、ストレスの増加で説明しようとするストレス悪玉説がある。しかし、心理学では、「欲求不満=攻撃学説」は、攻撃性の一部しか説明できないといわれて、生得的な攻撃性を前提にする必要がある。生徒理解には、心理学的視点は言うまでもなく、生態学的視点が必要である。攻撃性は、生態学的にプログラムされた本能的エネルギーである。自己の生命を脅かしたりする場合ばかりでなく、自己の自尊感情を逆立てる相手に対しても、攻撃行動が起こる。攻撃性を抑圧するのは困難であり、自己のコントロールの仕方を学ばせ、暴力として行動化しないようにすることが教育である。
2.耐性の低下と対教師暴力のメカニズム
非行少年一万人の幼児期の生育状況を研究したところ、その62%が幼児期に甘やかされているとの研究がある(相部教育研究所)。甘やかされた子どもは、わがままで自分の欲求をコントロールできない。トレランス(耐性)がないので、簡単にキレるのである。キレる子どもは、発達の土台が軟弱であり、幼児性を心理的特性に抱え込み、自己を確立していないのである。
多少古いデータではあるが、総理府青少年対策本部の「青少年と暴力に関する研究調査」(1982年)は、大変興味深い。アンケートでは、思春期の生徒は、20%ほどが「教師を殴りたい」と答えている。この数字のピークには、男女差があり、女子のほうが男子よりも一年ほど早くピークになる。これは、生物学的な性差、成熟の男女差、発達にともなうホルモンバランスが関係していると言われている。
攻撃性が対教師暴力となるには、内的攻撃性(殴りたいと意識すること)が願望段階として意識化される。そして、ちょっとしたきっかけ(誘因)によって、対教師暴力に発展してしまう行動段階がある。学校での対教師暴力に対する対応では、「願望段階」での予防的対応、「行動段階」での危機対応、「きっかけ要因」の防止を的確に行われなければならない。
3.女性教師への暴言・暴力の対応事例
30代半ばのS先生(女性)は、反抗的態度や暴言を吐く生徒に対して、実にうまい指導をする。それは、生徒が暴言から暴力にエスカレーションするメカニズムを理解し、同僚教師との連携を機能させているからである。生徒が、女性教師に暴言や暴力を振るうには、理由がある。教師がおののく、こびることへの快感がある。女性教師への意図的反抗は、生徒にとってゲーム的存在になっている場合もある。非行グループでは、教師への反抗によって、グループ内での価値を高める。
(1) 生徒の暴言に過剰反応しない
S先生は、共感的かかわりを前面に出し、生徒の感情面に焦点をあてていく。生徒の言葉に巻き込まれ、過剰反応をしない。教師の挑発的発言は、さらに生徒の過剰反応を引き起こす可能性がある。生徒への対応は、常に状況を判断し、パーソナルスペースも確保する。
(2) 生徒の興奮を鎮静化させる
S先生はチームプレイで介入する。教師の安全を守ることは、その生徒を守ることに繋がる。周りに生徒がいると、さらに興奮状態になるので、教育相談室等の個室で対応する。暴力に行動化している場合は、女性教師は、仲間の教師に助けを求めることが必要である。生徒が、ある教師に対して暴言を吐いている場合は、その教師を移動させる。なぜなら、暴言の対象者をなくすことで、興奮を沈静化させるのである。暴言や壁などを蹴飛ばす行為も長時間は続かない。エネルギーが低下するからである。生徒を落ち着かせてから、心理的アプローチを展開する。
(3) 現実療法的アプローチの活用
S先生は、生徒の興奮状態を鎮めるのがとてもうまい。「最近、寒くなったね。今でも外で、部活は練習しているの」「○○君、窓を見てごらん。きれいな夕焼けだね」と、興奮状態の生徒に対して話しかける。注意を違う視点に持っていくことも効果がある。指導ができる状態になったときには、効果的に現実原則を学ばせる現実療法的アプローチをする。現実療法とは、生徒に責任感、現実性、善悪の区別を厳しく迫るカウンセリングである。非行生徒に対してきわめて有効である。対教師暴力には、警察との連携も必要である。
生徒は、母親像と女性教師像が一致している場合がある。注意の仕方や内容が同じであったり、年齢、声の高さまでもが、類似して投影していることもある。生徒と母親との人間関係の悪化が投影し、女性教師との関係を悪くさせる場合もあるので注意が必要である。
4.失敗・挫折は成長のための発達課題
生徒は、女性教師に、暴言を浴びせながらも、共感してほしい、話を聞いてほしい、自分のことをわかってもらいたいという願望がある。この本質を見過ごしてはいけない。思春期真っ只中にいる生徒たちは、失敗・挫折を繰り返しながら成長していく。教師は、人生の伴走者として、常に生徒の応援団でいたい。