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教育における学校心理学・臨床心理学の実践2~ピアサポート・PBIS・SEL・情報モラル教育~

 目次
1.ピアサポート
 (1) ピアサポートの定義と理念
 (2) ピアサポートの実践事例
 (3) ピアサポートと社会的欲求理論
 (4) ピアサポートの進め方
2.PBIS (Positive Behavioral Interventions and Supports:学校環境におけるポジティブな行動介入と行動支援)
 (1) PBISの目的と概要
 (2) PBISで良好な行動を明確化する
 (3) アメリカのPBIS
3.SEL(Social and Emotional Learning:社会性と情動の学習)
 (1) SELで人の気持ちのわかる子供を育てる
 (2) SELの実践例
4.情報モラル教育
 (1) 兵庫県の調査
 (2) ネットの危険性
  ① 会ったことのない人とネットでやりとり
  ➁ ネットで知り合った人と実際に会う
 (3) ネットの中を生きる子供たち 
 (4) インターネット依存度のアンケート

この章では「教育の最先端で最前線」の内容をまとめてあります。現時点では、たぶん、一番の情報です。ピアサポート、PBIS、SEL、情報モラルを概観することによって、皆さんの教育観は大きく広がると思います。さらに、実践して頂けると嬉しいです。

1.ピアサポート

(1) ピアサポートの定義と理念
 不登校やいじめ、ネット依存、子供の自殺が深刻化しています。友達づくりや人間関係づくりが苦手な子供たちもいます。その対応策として、ピアサポートの有効性が注目されるようになりました。「ピア」とは仲間という意味であり、「ピアサポート」とは仲間が仲間をサポートする活動です。
 ピアサポートは、1970年代のカナダのいじめ問題の対応から始まりました。レイ・カー(Rey.A.carr,1981)は、中学生、高校生は仲間との関係、将来の職業の選択、学業成績など、様々な悩みに直面しており、それらの問題の約80%を生徒同士で相談し、解決しているということが明らかしました。それを踏まえ、自助(セルフヘルプ)を基本とし、生徒がお互いに助け合える(ピアヘルピング)ように指導し、仲間として互いの悩みを受け止め、解決していく力を身に付けさせることで、悩みを持つ子供が減少すると考えました。
(2) ピアサポートの実践事例
 ピアサポートのプログラムとして、①ピアサポート概論、②自己理解・他社理解・相互理解、③傾聴 ④コミュニケーション ⑤ストレス対処法、⑥課題の解決、⑦対立解消 ⑧ピアメディエーション ⑨ピアサポート活動計画(個人・チーム)などが紹介されています。他にも小学6年生が小学1年生の遠足のサポート、中学1年生が小学生の九九学習のサポートをするなどの異学年交流、多校種連携の実践も報告されています(中野・森川, 2009 ;春日井・西山 et al,2011 ;菱田・森川,2002)。
 例えばピアサポートの年間計画では、4月には、学級開きで人間関係づくりのピアサポートを実施し、友達づくりを促進させます。6月にはいじめ防止、9月には命の教育、11月はネット教育、3月は仲間への感謝などを学年の発達段階に応じて実施します。プログラムは、教育課程・年間計画に位置づけ予防的開発的な取り組みを実施することが効果的といえます。
(3) ピアサポートと社会的欲求理論
 M・トンプソン(M.Thompson,2003)らの、社会的欲求理論では、社会的欲求には「交流欲求」「承認欲求」「影響力欲求」の三つの欲求があるといいます。
 欲求の充足とともに、サポーターは、ピアサポート活動によって年下に対する対人関係スキルや向社会性、自己有用感を高めることができます。
 ピアサポートによって得られる「自己有用感」は、「人の役に立ててよかった」「認めてもらえてうれしかった」「必要とされていると感じた」などの感覚であり、他者の存在や他者との交流を前提にして生まれます。
 また、見逃せないのが被サポーターにとっての効果です。被サポーターは、サポートされる体験を通して、年長に対する対人関係スキルが向上し、モデル像と他者信頼感を獲得できます。(4) ピアサポートの進め方
 ピアサポートは、ただ活動するだけでは不十分であり、意図的・計画的なプログラムが必要です。ピアサポートの進め方は、「実施の枠組みの決定→トレーニング→プランニング→サポート活動→スーパーヴィジョン→プログラムの評価」という構造を基本にしています。

2.PBIS (Positive Behavioral Interventions and Supports: 学校環境におけるポジティブな行動介入と行動支援)

(1) PBISの目的と概要
 PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports 学校環境におけるポジティブな行動介入と行動支援)は、スガイとホーナーら(Sugai,G., Horner, R.,et al., 2000)によって開発されました。スガイによればPBIS は、学校の人的または物的な環境を整備して、子供たちの望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすことを目的としたアプローチです。
 PBISは、行動問題 の減少、子供本人の適応行動スキルの増加、そして子供たちの QOL(Quality of Life)の向上を目指したもので、2002年の「No Child Left Behind (落ちこぼれ防止法)」の施行以来、児童生徒の行動 面への支援として広くアメリカで普及しつつある生徒指導システムの一つです(バーンズ, 2013)。米国教育省からの援助を受けて推進され、各州共通基礎スタンダード(Common Core State Standards:CCSS, バーンズ, 2013)の一つとして取り組んでいます。
(2) PBISで良好な行動を明確化する
 PBIS とは、ポジティブな行動指導介入サポートのことで、問題が起こらないようにあらかじめ学校全体で何ができるかという視点で考えていくプロアクティブな形の児童生徒への指導方針です。(バーンズ,2013)。
 PBISの目的を池島・松山(2014)は、「問題行動の減少、子供本人の適応行動スキルの増加、そして子供たちのQOLの向上を目指したもの」としています。
(表3.3)は、学級目標を「思いやり・責任・協力で最高のクラスになる」にしているPBISの事例です。学級目標から、授業・給食・掃除・休み時間などの場面に分けて望ましい行動を具体的に考えさせ、1枚の表にまとめ、教室に掲示し、朝・帰りのホームルームで行動を確認させる取り組みもあります。

A小学校のPBIS(栗原,2018)
(学級目標)思いやりや責任感があり、協力できるクラス
  授業中 休み時間 給食 掃除
思いやり 〇間違った発表をしても笑わない
〇発表している人の話をしっかり聴く
〇1人の子がいたら話しかける
〇ケンカをしない
〇悪口を言わない
〇給食当番が活動しやすいように席について待つ
〇給食当番にお手伝いをする
〇ゴミがあったらゴミ箱に入れる
〇掃除当番に「ありがとう」という
責任 〇真剣に先生の話を聴く
〇私語をしない
〇眠たくても寝ない
〇廊下を走らない
〇体育館やグランドのルールを守る
〇なるべく残さないようにする
〇食べることに集中して、時間内に食べる
〇掃除をさぼらない
〇反省会をしっかりする
協力 〇わからない問題は教え合う
〇相談する時、1人の子がいたら仲間にいれる
グループ学習では、みんあで相談する
〇遅れてきた人を仲間に入れる
〇ボールを仲良く使う
〇給食の片づけを班で仲良くする
〇おかわりの順番を守る
〇班で仲良く掃除をする
〇全員で机下げをする

 実践方法は、付箋に授業中の思いやり・責任・協力を書かせます。例えば、授業中の思いやりでは、「間違った発表があっても笑わない」、責任では「眠たくても寝ない」、協力では「相談する時、1人の人がいたら仲間に入れる」など、子供たちが考えた行動を尊重して望ましい行動を具体的に示し、行動化を促します。子供たちの考えた行動には子供の視点であるが、敢えて子供の意見を尊重していくことが大切です。
 PBISでは、①価値を明確にすること、②価値に基づいた行動を具体化すること、③良い行動が生起する仕掛けや場を考えること、④即時に強化すること、がポイントです(栗原,2018)。
(3) アメリカのPBIS
 アメリカのPBISでは、単に望ましい行動を教示するだけではなく、望ましい行動が認められた時には、その行動に対して即座にカードに記入できます。カードには、誰が・どこで・どのような望ましい行動を行ったのか簡単に記入し、表彰することで行動を強化する仕組みが設けられています。
 日本では、望ましい行動に学級全体で取り組み、ある一定数になったなら、例えば学級でお楽しみ会を開く、自由時間を作る、などを実施している学校もあります。PBISでは、子供たちに「してはいけないこと」を伝え守らせることではなく、それぞれの場面で「自分にも他者にも望ましい行動とは何か」に気づかせ、行動の獲得と定着させ、子供の成長を引き出します。

3.SEL (Social and Emotional Learning:社会性と情動の学習)

(1) SELで人の気持ちのわかる子供を育てる
 小泉 (2011)はSEL(Social and Emotional Learning)を「捉え方と他者の関わり方を基礎とした、社会性(対人関係)に関するスキル、態度、価値観を身につける学習」と定義しています。
 SELを開発したCASEL(キャセル:Collaborative for Academic, Social, and Emotional Learning)では、①自己への気づき、②他者への気づき、③自己のコントロール、④対人関係 ⑤責任ある意思決定、の5つの力の習得を目指しています。
(2) SELの実践例
 道徳の授業で実施されたSELを紹介します(小泉,2011)。以下のの絵を見て3人の気持ちを理解してみます。
 ボールを持った2人の男の子は、掃除当番をサボって、体育館へ遊びに行ったかもしれない。その時、1人で掃除している子供の、眉毛、口もとから表情を読み取るトレーニング、つまり、感情の理解(入力)をします。「また、あの二人は掃除をサボって、本当に嫌だ」「注意できない自分が悔しい」などの意見がでます。「先生は、なんで注意してくれないんだろう」と言われ、「はっ」とした経験がある教師もいます。SELでは、このようなワークシートを活用しながら学んでいく方法もあります。

4.情報モラル教育

(1) 兵庫県の調査
 兵庫県青少年本部(2019)では文部科学省委託事業として、ネット依存の大規模調査を実施した。調査では、厚生労働省がネット依存調査で用いた「DQアンケート」(キンバリー・ヤング(Kimberly Young,1996))と、竹内・金山(2019)が開発した「ケータイ・スマホ夢中度アンケート」を使って実施しました。調査対象人数は、小~高校生9,814人、その保護者7,390人です。その中で、ネットの問題点が明らかになってきました。
(2) ネットの危険性
 ① 会ったことのない人とネットでやりとり
会ったことのない人とネットでやりとりをしたことがあるかという質問に対し、子供と保護者の回答をまとめたものです。子供の回答は、小学生15.5%、中学生28.9%、高校生52.5%ですが、保護者の回答は、小学生9.5%、中学生15.4%、高校生24.4%と、どの校種も2倍程度、子供の方が多いです。子供がスマホ等で何をしているのか保護者が把握できていないことがよくわかる結果です(竹内・金山,2019)。 ② ネットで知り合った人と実際に会
 ネットで知り合った人と実際に会ったことがあるかについて、子供と保護者の回答をまとめたものです。子供の回答は、小学生2.2%、中学生3.3%、高校生11.9%です。親の回答は、小学生0.1%、中学生1.4%、高校生5.4%と、どの校種も保護者が現状を把握していないことがわかります。特に高校生の11.9%がネットで知り合った人と会っているにもかかわらず、保護者は約5.4%しか把握していません(竹内・金山,2019)。
 ネットで知り合った人と実際に会うとなりすましや性被害、誘拐などの被害に遭う危険性もあります。2017年、自殺願望のあった若い女性を中心に、神奈川県座間市で9人の切断遺体の連続殺人事件が発生しました。犯人はツイッターで「首吊り士」を名乗り、「首吊りの知識を広めたい、本当につらい方の力になりたいお気軽にDMください。」と書き込み、事件が起こりました。まずは、教師や保護者が現状を知る努力をすることが必要です。(3) ネットの中を生きる子供たち
 内閣府が実施した「青少年のインターネット利用環境実態調査」(2017,2019)で、低年齢層の子供のインターネット利用環境実態調査も行われました。0歳のインターネット利用率は3.1%、6歳は45.0%、9歳は65.8%でした。低年齢の子供たちもインターネットの利用が進み、同時にネット依存や、ネット問題に直面していることを示唆しています。早期に情報モラル教育の実施が求められます。(4) インターネット依存度のアンケート
 インターネット依存症の度合いは、どうやって計測すればよいのでしょうか。現在、いくつかの主要なスクリーニングテストがありますが、その中でも特に多く用いられているのが、「インターネット依存」の概念を提唱したキンバリー・ヤング(Kimberly Young)が作成したDQ(Diagnostic uestionnaire)とIAT (Internet Addiction Test)です。ここではDQを紹介します。
 キンバリー・ヤング(Kimberly Young,1996)が開発したDQは、8項目の簡単な自己診断で、5項目に当てはまった場合に依存症の危険性を警告するものです。厚生労働省研究班が 2017 年度に実施した全国調査に採用されています。

Diagnostic Questionnaire (Kimberly Young,1996)
あなたはインターネットに夢中になっていると感じていますか?(たとえば、前回にネットでしたことを考えたり、次回ネットをすることを待ち望んでいたり、など) 1. はい
2. いいえ
あなたは、満足をえるために、ネットを使う時間をだんだん長くしていかねばならないと感じていますか? 1. はい
2. いいえ
あなたは、ネット使用を制限したり、時間を減らしたり、完全にやめようとしたが、うまくいかなかったことがたびたびありましたか?  1. はい
2. いいえ
ネットの使用時間を短くしたり、完全にやめようとした時、落ち着かなかったり、不機嫌(ふきげん)や落ち込み、またはイライラなどを感じますか? 1. はい
2. いいえ
あなたは、使い初めに意図したよりも(はじめに思ってたよりも)、長い時間オンラインの状態で(ネットにつながって)いますか? 1. はい
2. いいえ
あなたは、ネットのために大切な人間関係、学校のことや、部活のことを台無し(ダメ)にしたり、あやうくするような(きけんな)ことがありましたか? 1. はい
2. いいえ
あなたはネットへの熱中のしすぎをかくすために、家族、学校の先生やその他の人たちに、うそをついたことがありますか? 1. はい
2. いいえ
あなたは、問題から逃げるために、または、絶望(ぜつぼう)的な気持ち(希望が持てない)、罪悪(ざいあく)感(うしろめたい、心苦しい気持ち)、不安、落ち込みなどといった、いやな気持から逃げるために、ネットを使いますか? 1. はい
2. いいえ

 

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