PISA型学力とフィンライドの教育
目次
1.協同学習とグループ学習の違い
2.PISA型学力と「ゆとり教育」
3.日本は勉強が楽しくない
(1) 勉強が楽しくない日本
(2) 勉強はできるけど嫌いな子供たち
4.フィンランド(PISAトップクラス)
(1) PISAでトップクラスのフィンランド
(2) フィンランドとは正反対の日本
5.記憶のピラミッド
(1) エドガー・デールの「記憶のピラミッド」
(2) 積極型学習のフィンランド
6.学習形態と学力別に見た学習意欲の比較 ~協同学習が好きな子供たち~
7.協同学習の位置づけ
(1) 協同学習とグループ学習の位置づけ
(2) 「6人掛け」がいいか「4人掛け」がいいか
8.協同学習のエッセンス
(1) 協同学習の流れ
(2) 楽しそうに見えるグループ学習
(3) 授業の中でコミュニケーション力を育てる
1.協同学習とグループ学習の違い
日本の学力が伸びないのは「協同学習」と「グループ学習」の違いが明確ではないからです。結論から先に申しあげますと、「グループ学習」では学力が伸びません。小学校から中学校、高校とアクティブラーニングやグループ学習を実施していますが、勉強に関しては伸びません。科学的なデータを根拠に、皆様にお知らせしたいと思っています。
2.PISA型学力と「ゆとり教育」
PISA型学力については皆様もご存じだと思います。OECD加盟国を中心とした世界的な規模の学力テストです。この年度別順位で、2000年の科学的リテラシーは日本が世界2位、読解力は8位、数学的リテラシーは1位で、とても良く勉強ができていました。
しかし、その後、学力は低下し、2006年には科学的リテラシーが世界6位まで下がり、読解力は15位、数学的リテラシーも10位と世界各国に引き離される結果となりました。
これは授業時数と総合学習が減った「ゆとり教育」の影響で様々な弊害が露見したため、教育方針を転換して授業時数が増えたわけです。その結果、2015年の科学的リテラシーは世界2位、読解力は8位、数学的リテラシーは5位まで回復したのが日本の流れです。
3.日本は勉強が楽しくない
(1) 勉強が楽しくない日本
国際教育到達度評価学会(IEA)は、世界46か国の数学と理科の調査を行っています。2003年に行った調査で「算数の勉強が楽しい」と回答した日本の小学4年生は下から2位、同じく中学2年生も下から2位。「理科の勉強が楽しい」と回答した日本の小学4年生は、下から3位、中学2年生も下から3位。放課後の時間の使い方も宿題をする時間は1時間、これは世界46か国中で何と46位。一方、テレビ・ビデオを見る時間は2.7時間で1位。
私が、ここで何を言いたいか。それは小学校の時から子供たちは勉強が嫌いなのです。なぜそうなのでしょうか?勉強が楽しくないからです。
(2) 勉強はできるけど嫌いな子供たち
IEAの国際調査では、日本と同じように「勉強はできるけど嫌い」といった子供たちが多い国があります。その国と地域は「韓国」「台湾」「シンガポール」「香港」の4つです。
ちなみに「中国」は、この年度の調査を実施していません。
これら4つの国に共通しているのは、全て東アジア圏に集まっているということです。
東アジア圏の学校における学習スタイルは「スクール形式」で、日本国内で多く見られる座席配置です。そして先生が板書し、一生懸命、「詰込み教育」で教える「暗記型」です。
そのような学習スタイルの国や地域の子供たちは、勉強はできますが嫌いなのです。
4.フィンランド(PISAトップクラス)
(1) PISAでトップクラスのフィンランド
現在は、シンガポールがPISA型学力で世界一ですが、IEAの調査が行われた当時は、フィンランドが世界一でした。フィンランドは「国家のグランドデザイン」としての教育を高らかに掲げています。その理由は、森林ばかりで資源に恵まれない国だからです。
フィンランドがある北欧は寒冷地で、基幹産業も育たなかったため、必然的に出稼ぎが多くなっていました。その出稼ぎはヨーロッパに留まらず、中東にまで及んでいました。
このような状況では国が滅びるとさえ考えられていました。
その時、30代の若き文部大臣が立ち上がりました。そして、「国家のグランドデザイン」として、教育で国を建てなおそうと考えました。私も、一度お会いしたことがありますが、
大変魅力的な方でした。
(2) フィンランドとは正反対の日本
このフィンランドで実践したのは、「少人数学習」「個別指導」「協同学習」の3つです。
日本ではごく普通にある「数学のできるクラス」「普通のクラス」「苦手なクラス」などの「習熟度別学習」は、北欧独特の「平等の考え」ゆえに実施されていません。ですから、どこの学校も大体同じような感じで、子供たちは地域の学校に通います。
そして、高校入試もありません。高校入試がなければ、勉強するかどうか疑問ですが、フィンランドでは良く勉強します。また、日本とは正反対に、「総合学習」が大変に盛んで、「授業時数」はOECD中で最低です。「授業時数」が最低なのに学力は世界一、これは、
「協同学習」の力だと思っています。
5.記憶のピラミッド
(1) エドガー・デールの「記憶のピラミッド」
24時間後にどの程度記憶しているかを「記憶のピラミッド」という図式で提唱したのがアメリカの心理学者であるエドガー・デールです。
彼の論理的根拠に従えば、読んだこと、聞いたこと、見たことの10%~30%しか記憶に残っていません。また、映像や展示物、デモンストレーションなどを見たり聞いたりしたことは50%程度の記憶に留まっています。
しかし、討論に参加して、そのテーマについて自分が話すと、自分が話したことの70%程度まで記憶しています。そして、演じたりロールプレイをしたり、実体験をしてみると、その90%近くを記憶しています。
(2) 積極型学習のフィンランド
フィンランドの教育は「受容」「参加」「実践」を中核とした「積極型学習」、日本の教育は「言語受容」「視覚受容」を主とした「受動型学習」と分類されています。
私が3年ほど前に、フィンランドを訪れて取材した時、その学校では「スクール形式」ではなく、最初からグループワークを行っている雰囲気で子供たちが着座していました。そもそも、黒板というものが存在しません。教室の中央に小型のホワイトボードが置かれているだけです。子供たちがどんどん議論して進めていく授業スタイルだったのです。
6.学習形態と学力別に見た学習意欲の比較 ~協同学習が好きな子供たち~
この図は縦軸に「学習意欲スコア」、横軸に「学業成績」が取られた折れ線グラフですが、「勉強が楽しい、面白い」という学習意欲と、「成績が良い、普通、苦手」という位置づけです。これは高校のデータで、上のグラフは「協同学習」、下は「一斉授業」のグラフです。
成績上位の生徒は「協同学習」に高い意欲を示します。成績下位の生徒も「協同学習」が好きなのです。小学校ですと「協同学習」が好きというデータが数多く出てきます。
ですから、あえて意図的に「協同学習」を取り入れたほうが良いと思います。ただし、そのやり方ですが、授業の全てを「協同学習」にしてしまう必要はありません。中には、しっかり教え込まないといけない時もありますし、しっかり言い聞かせなければならない時もあると思います。
例えば、45分の授業であれば10分間だけ「協同学習」を入れるとか、そのような流れが宜しいかなと、私は思います。学力を上げるためには、宿題をたくさん出すのではなく、授業改善を行うことが重要だということです。
7.協同学習の位置づけ
(1) 協同学習とグループ学習の位置づけ
「グループ学習」の中に含まれるのが「協同学習」です。「グループ学習」では効果的な勉強ができません。その理由の1つに、勉強の苦手な子は得意な子に任せてしまうことが挙げられます。外見上は相談してワイワイやっているように見えますが、「俺なんてどうせわかんないし」「〇〇君できるから〇〇君に任せちゃおう」といったやり取りになります。
結論から言えば、勉強の得意な子供たちが中心となり、勉強の苦手な子供たちが、議論に参加していない状況ができてしまいます。
(2) 「6人掛け」がいいか「4人掛け」がいいか
さて、皆さん、「6人掛け」と「4人掛け」、どちらが相談活動に好ましいと思いますか?
6人掛けでも4人掛けでも同じように見えますが、もし、6人掛けの端にリーダー格の子供が座っていた場合、そのリーダー格の子供を中心とした4人に議論が偏ってしまい、残りの2人が「蚊帳の外」のような状況に置かれます。
これが4人掛けですと、話が自然に中央に集中しますので、私は4人掛けが良いと考えています。ただし、議論が長い時や時間が十分に確保されている時は6人掛けでも良いと思っています。授業時間が短い時は4人掛けがお勧めです。
8.協同学習のエッセンス
(1) 協同学習の流れ
まず、私が皆さんに説明します。すると1人で良く考えます。これが「個人思考」です。そして周りの方々と説明内容について話し合うと、これが「グループ思考」に変わります。グループ全員で考えて答えを導き出そうとすると「全体思考」となり、そしてまた、一人ひとりにフィードバックして「個人思考」に戻るというのが協同学習の流れです。
(2) 楽しそうに見えるグループ学習
私もこれまで、小学校の研究授業に参加させて頂く機会が多くありましたが、その時に校長先生が「うちの授業は凄く盛り上がっているんです」と良く仰っています。確かに、グループ学習をやっているのですが、すぐに相談させています。個人思考がありません。
ワイワイやっているので、教室の中は楽しそうに見えますが、学力は全く伸びていません。
「一人で考える力」を養う個人思考でなければ、ただ教室が盛り上がっているだけで、それ以上の効果は見込めません。グループ学習は自由度が高いですので、それを使っても良い時がありますが、本来の授業が定着していないという別の側面も見受けられます。
(3) 授業の中でコミュニケーション力を育てる
「水泳」は「水泳」をするから泳げるようになります。水泳の本を読んで泳げるようになっている人は殆どいません。「自転車」も「自転車」に乗って、感覚を掴むことで乗れるようになります。「コミュニケーション」は「コミュニケーション」をさせることによって、そのコミュニケーション力が高まるのです。
では、そのようなコミュニケーションを一体どこでさせるのか。それは授業の中です。なぜならば子供たちが多くの時間を過ごすのが学校だからです。その学校の中で最も多い時間は授業です。だから授業の中でコミュニケーションをさせるのです。私は、協同学習の中でコミュニケーション力も同時に育てていく考え方を多くの皆様に提唱しています。