いじめと出席停止

1 いじめは、精神を崩壊させる
 B君が私を訪ねてきたのは、彼が23歳の時だった。中学校でいじめに遭い、それから不登校となり、以来ずっと引きこもりとなっていた。最初はプロレスごっこだった。技をかけられても我慢していた。しかし、その後「殴ってもお金を強要してもいい存在」となり、精神的にも支配されていった。B君が受けたいじめは壮絶である。いじめのグループにトイレに連れて行かれ、給食に出されたヨーグルトの容器に入れられたオシッコを無理矢理飲まされたという。もちろん、すぐに吐きだしたが、今度はすぐさま別の者に頭からオシッコをかけられたという。それから彼は不登校となり、家にずっと閉じこもるようになった。彼は、親にも先生にもその事件のことを言わなかった。自分は価値のない人間だと思いこみ自殺を図ろうともしたという。当時、彼のいた中学校は、一部の非行グループが、授業にも出ず廊下を徘徊し、先生方の胸ぐらを掴み「ウザイ」「消えろ」などの暴言を吐き、時には暴力も振るっていた。いわゆる〈対教師暴力〉が頻発していたのである。

2 平成30年度の出席停止は7件
 平成30年度に文部科学省に報告された〈いじめ〉は小中学校で523,548件。同様に小中学校の〈暴力行為〉は65,856件、〈生徒間暴力〉は46,532件。〈対教師暴力〉は8,656件です。うち〈出席停止〉になった生徒はわずか7件です。ちなみに平成29年度は8件です。


平成30 年度  児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(文部科学省)

 小学校中学校高校特別支援学校合計
暴力行為36,53629,3207,08472,940
 うち対教師暴力540832484789,134
 うち、生徒間暴力26,54319,9894,59651,128
いじめ425,84497,70417,7092676543,933
出席停止077

 ある中学校教師は生徒に殴られ鼻を骨折した。その生徒は、教師の鼻の骨を折ったことを自慢し、他の生徒も教師に挑発的な行動を取るようになっていったという。生徒が殴りかかってきたため、その手を掴んだだけで体罰と訴えられた教師もいる。秩序は一体どうやって守ればいいのだろうか。

 いじめの出席停止については、いじめによる自殺が起こると議論が紛糾しています。私はB君のように命に関わるようないじめ、精神を崩壊させるようないじめ、暴力を伴ういじめは出席停止も必要だと考えています。加害者を殺人者にしないためでもあります。加害者にも、冷静になる時間を保障し、相手の気持ちになって考えること、これからどう生きたらいいのか、丁寧に教育していくことが必要です。家庭に問題を抱えている場合も多く、その悩みもしっかり受け止めていくことも大切です。過ちは過ちを犯すから学ぶのです。

3 オルタナティブ・スクール
 「S子ちゃんに無視された」「K君にメールで悪口を言われた」これらは学校の中で解決すべき問題であり、出席停止の対象にならないのは言うまでもありません。すべてがいじめではなく、学校教育ではその解決方法を学ぶことが大切なのです。子供たちは、様々な悩みや課題、問題を抱えて生きています。それらの問題を解決することで成長していくのです。これは学校教育内の課題といえます。 
 しかし、学校内ではいじめ・暴力行為など対応の難しい子供たちがいるのが現状です。欧米では、オルタナティブ・スクールのように、非行を犯した子供たちを丁寧に教育する学校も存在します。例えば、日本でも、教員を退職した生徒指導・教育相談で力のある人材を再雇用し、子供の学習権を保障しながら、個別に指導していく制度設計も必要と考えています。教職を目指す大学生を活用するのもいいと思います。いじめの加害者や暴力行為を繰り返す子供たちへのあたたかいサポートも必要です。それが、子供たちの命を守ることに繋がります。

4 平成30年、子供の自殺は332人。悲し過ぎます。

 みなさんは覚えていますか。子供たちの自殺報道を。平成30年は、小学生5人、中学生100人、高校生227人、合計332人の尊い命が失われました。この数字は、学校から文部科学省に報告があったものだけです。親は、子供の自殺を公表したくありません。その気持ちは痛いほどよくわかります。本当はもっと多いのかもしれません。これだけ多くの子供の自殺者が出ているのです。ぜひ、ご家庭、学校、地域でも真剣な議論をお願いいたします。

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